死にたくない、若返りたい、人生やり直したい、還暦親父の異世界チート無双冒険譚

克全

第1話:不老不死を求めて

 死にたくない、若返りたい、人生やり直したい!

 六十歳を前にして切実に思うようになった。


 祖母は六十歳で胃癌が再発して死んだ。

 毎月近所の内科で検査していたのに、再発を見落とされた。


 父は六十歳で肺癌が原発の脳腫瘍となって死んだ。

 週に一回、市内で評判の病院で見てもらっていたのに、見落とされた。

 数年前にやった結核痕にせいで、肺癌が分からなかったのだ。


 六十歳を前にして、ようやく何の努力もしてこなかった人生を悔いた。

 人生をやり直して何かを成し遂げたいと切実に思った。


 だが、もう還暦前の初老と言われる年齢になってしまっている。

 この世界で何かをするには遅すぎる。

 だから、異世界に行って、不老不死に成って、やり直そうと思った。


 自分が半ばおかしくなっている自覚はある。

 色々あって、精神的に少し病んでいる自覚がある、

 だが、狂気に囚われているほうが楽なのだ。


 六十歳で死ぬ事が無くても、百歳まで生きられたとしても、元気に動き回れる年数は後二十年もないのだから、半ば遊びに生きる。

 そう思って日本中の神隠し天狗隠しスポットを巡ったのだが……


 ★★★★★★


 ガニラス王国歴二七三年五月五日

 ルイジャイアン・パッタージ騎士領

 田中実視点


 転移した森を、磁石を頼りに印を残しながら西に進んだら、村があった!

 村は丸太を地面に突き刺した防壁に囲まれている。


 門は固く閉じられ、防壁の上には見張りの兵士が立っている。

 この世界は、定番通りの中世程度の文化で、危険と冒険に満ちているのか?!


「お~い、俺の言う事が分かるか?!」


 異世界転移小説の多くでは、都合よく言葉が通じていた。

 話しかけて返事をしてくれれば良し、不信に思われたら逃げればいい。


「なんだ、どうした……まさか、別の世界からやってきたのか?!」


 言葉が通じたどころか、異世界から来た事まで見抜かれてしまった!


「なんでそんな事を言う!?」


「お前のやってきた方向は、強力な魔獣が多くて誰も近づけない大魔境だ。

 ただし、一四〇年前のスタンピードまでは、定期的に別の世界の者が来ていた。

 そんな方向からやってきた見た事もない者を、そう思うのは当然だろう。

 何より、お前の着ている物は、とてもこの世界の物には見えない」


「それで、俺が異世界の人間だったらどうする?」


「頼みがある、薬があるなら売ってくれ!

 今この村は疫病で苦しんでいる、別世界の薬を持っていないか?!」


「申しわけないが、ありふれた薬を少量しか持っていない。

 その薬も疫病に効果があるか分からない。

 患者の状態を見せてくれ、思い当たる薬があったら買ってこよう」


「本当か、直ぐに領主様を呼んで来る、待っていてくれ」


「分かった、だが礼金はもらうぞ?」


「お前はここで見張っていろ」


「はっ!」


 二人いる門番の一人、俺と話していた方が消えた。

 階段を降りて領主の館に知らせに行ったのだろう。


 しまった、この世界独特の疫病に感染したらどうしよう?!

 念のために海外渡航のためのワクチン予防接種は全部した。

 だが、この世界にだけある病気だとどうしようもない!


 ……まあ、どうにかなるだろう。

 内心では絶対に無理だと思っていた異世界に来られたのだ。

 俺は運が良いから、この世界の病気には罹患しないだろう。


「私はこの村の領主、ルイジャイアン・リッター・パッタージだ。

 貴公が別の世界から来たというのは本当か?」


「本当だが、特に何ができる訳でもない。

 金や銀で支払ってくれるなら、元の世界から品物を買って来られるだけだ。

 何をどれだけ欲しいのか、いくら出せるのかを言ってくれないと、役に立てるかどうかも答えられない」


「私が払えるのは小金貨で二一五四枚だ、手持ちのお金はそれしかない」


「俺の世界では、この世界の金貨は使えない。

 鋳潰して純金にして、俺の世界の金に換えるしかない。

 金貨の重さと混ぜ物の量を教えてくれ。

 それと、金と銀と銅がどれくらいの割合で交換されるのかも教えてくれ」


「分かった、全部教える、門を開けるから入ってくれ」


「分かった」


 ギィイイイイイ

 

 軋む音を立てながら、俺の身長の倍以上、高さ四メートル幅四メートルほどの、観音開きの門が左側だけ開けられていく。


 俺は門から少し離れた場所で、何かあれば直ぐに森に逃げられるようにしていた。

 そんな俺の気持ちが分かるのか、領主を名乗った同年輩の男だけがでてきた。

 独りだけだが、中世の騎士のような鎧を着て剣を佩いている。


「私の館に案内しよう。

 田舎領主のマナーハウスだから大したもてないはできないが、誠意を見せたい」


 油断する訳には行かないが、悪意も敵意も感じられない。

 礼儀正しい言動をしてくれる相手には、俺も礼儀を払わないといけない。


「お申し出はとてもうれしいのですが、先に病人を診させてください。

 医療の知識が多少はありますので、どのような薬が必要か確かめてから、必要な金銀の量を言わせていただきます」


「ありがとう、医療の知識があるというのは望外の幸運だ。

 私が直接案内しよう、ついて来てくれ」


「ダメです、父上、危険です、お止めください!

 兄上方に続いて父上まで倒れられたら、領地が奪われてしまいます!

 別世界からの客人は、私が案内させていただきます!」


 俺とそれほど身長が変わらない、金髪碧眼の美少女が領主を止めた。

 言葉の内容から、領主の娘で上に兄が二人以上いるのだろう。

 父親に負けない武骨な鎧を着て剣を佩いているから、女騎士なのだろう。


「ルイジャイアン騎士、御息女の申される通りだ。

 領主が疫病患者の所に行くのは危険過ぎる。

 それと、疫病患者と接触した者と会うのも危険だ。

 どうしても会って話をしなければいけないのなら、風呂に入ってからだ。

 風呂に入った後なら、多少は菌やウィルスを洗い流せる」


「菌やウィルスと言う言葉は分からないが、言いたい事は分かった。

 客人が病の者達を見て回ってくれている間に、風呂を用意させる。

 ヴィオレッタ、任せたぞ」


「御安心ください、父上、私も騎士です。

 客人、私が案内させていただく、ついて来てくれ」

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