裏10項 お買い物にいきませんか?
わたしは、商店街に連れ出された。
クラム様のお屋敷はケルアの町にあり、クラム領の中心だ。
わたしはルーク様に街に連れ出されることになった。
せっかく馬車を用意したのに、ルーク様は2人だけで行きたいというのだ。
ルーク様、なんだか変装しているし。
これはいよいよ本当に私が被害者の密室殺人事件が起きるのかもしれない。
それにしても、いつもね。
ルーク様が通ると、領民の皆さんはどんどん居なくなるし、視界に入った商店も、どんどん閉店していくんだよ。
ここまで嫌われているのって、ある意味すごいと思う。
あぁ。ルーク様は勇者さまなんだっけ。
こんなに村人に嫌われていたら、村に行っても、なんのお話も聞けないし、何のクエストも冒険もスタートしないと思う。
ププッ。
考えると、ちょっと愉快だ。
わたしが聖女の儀を受けたら、勇者と聖女。そのうち、世界中を旅して世界を救ったりして。
……なぁんてね。
しばらく、商店街を歩くと服屋さんがあった。
ルーク様と一緒に入る。
もしかして、最後くらいは清潔でいたいっていう、さっきの話しを覚えていてくれたのかな。死装束的なものをくれるのかな?
ルーク様と店員さんが何か話している。
「こちらの女性のお召し物ですか? 夜のご奉仕用ですか? どのような物をお望みで?」
え。
なんか変な話しになってない?
それは、そういうのちょっとは興味があるけれど、わたしにも相手を選ぶ権利くらいはある。
わたしは、ルーク様に話が聞こえない場所まで行くと、必死に店員さんに抗議した。
「ちょっと、困るんです。そういう誘導されると、私のご主人様は男性ホルモン過多なので、すぐ勘違いしちゃうんですよ!」
ちょっとエキサイトしてしまった。
肩で息をしながら、ルーク様の方をチラッとみると、少し気まずそうに目を逸らされた。
ほらぁ。
絶対、あの人、勘違いしてる!!
あっ。なんだか店員さんを呼びつけて、指示してるぞ。
店員さんがこっちにきて耳打ちする。
「あなたのご主人様は、そうとう好き者ですね。なんか、夜もメイド服をご所望でしたよ? 何点か試着させたいとのことでした」
えっ。
試着……。
わたしが動揺してるように見えたのだろうか。
店員さんはさらに耳打ちしてきた。
「あ、そうそう。試着の時にはリアリティが欲しいので下着は着用しないようにとのことでしたよ?」
えーっ!?
本当に貞操の危機?
ちょっと困るんですけど。
今日は多分危険日……。
ルーク様の部屋に隠してあるエッチな本に「初めての時は当たりやすい」って書いてあった気がする。
自分のことは自分で守らねば!!
この年でシンママは大変すぎる。
店員さんに紙とペンを借りて、私はルーク様に手紙を書く。生まれてくる子供のためにも、言うべきことは言わねばならない。
「……子供ができたら婚姻(ちゃんと大切にしてくれること)か、それが叶わぬ場合には、それ相応の養育費を要求します……」っと。
ルーク様用の署名欄も用意しないと。
フフッ。これを見せれば滅多なことはできまい。
店員さんが覗き込んでくる。
「ふーん。メイドさん、なんだかんだ言ってご主人様のこと好きなんだねぇ」
「なんでですか? そういうのじゃ全然ないです!!」
「そう? わたしなら、絶対に嫌だけどね。オーナーと婚姻とか。想像したらだけでも気持ち悪い。あなた面白いね。名前はなんていうの?」
「メイといいます。クラム家のお抱えメイドです」
「わたしは、リーズ。こんど、休みの日にお茶でもいこ!!」
わたしは頷いた。
なんか友達ができたみたい。
何着かメイド服をかってもらった。
次は下着屋にいく。
ルーク様に好きなものを買えと言われた。
絶対変だ。
あのドケチのルーク様らしくなさすぎる!
やっぱり、今夜、そういうの求められるのかも。
お給料少ないし、買ってくれるのなら有難いけれど……。
そんなことを考えると、ルーク様に聞かれた。
「お前。どんなのを履きたいんだ?」
そんなの恥ずかしくて、男性に言えるわけない。
「ルーク様がお好きな物でいいです。でも、あまり恥ずかしいものはちょっと……」
わたしがハッキリしないので、店員さんが何点か持ってきてくれた。
「わたしもプロなのでね。男性の顔を見ただけで、今夜は、どういうので楽しみたいかがわかるよ」
何点か見せてもらう。
すごい……。
これ、履いている意味あるのか?
たぶん、これ着て歩いてたら、お巡りさんに逮捕されると思う。
ルーク様が咳払いをする。
「えー、お前は俺の所有物なのだから、何でもいい。どうせすぐに脱がせるのだからな」
何でもよくないよ!
こんなの着ていて、街で転んだらどうするのさ。
それに、俺の所有者って。
……とにかく困るの。
今日は赤ちゃんできちゃう。
はっ、そのあと殺されちゃうから、そういう心配はいらないってことなの?
するなら最後まで責任をとって欲しいし、そもそも、違う日がいい。
わたしは知っている。ご主人様は、自分で思ってるほど、悪じゃない。そこで、わたしは先回りしてご主人様を牽制することにした。
「あの、わたしを弄んで、そのあとは殺すのですか? 夜までに遺書とか書いた方がいいですか?」
ルーク様は狼狽えている。
ダメージを与えられたようだ。
フッ。
勝った。
すると、ルーク様は帰ると言い出し、足早になった。
ふふっ。
敗者の敗走だ。
そのあとは手を引かれて、お屋敷まで一緒に帰った。
ご主人様の手は、少しだけ汗ばんでいた。
また色々お話しできるようになって嬉しい。
やはり貴方といると、色んなものが色鮮やかに見えるよ。
これからも一緒にいてね。
わたしの、クズでアホで薄毛でメタボなご主人様。
★今回のお話しの表側★
「第10項 お買い物の時間です」
https://kakuyomu.jp/works/16818093075519809159/episodes/16818093075530422937
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