第42話 初日のトラブル

 ミスティックさんたちがシャラックの町を後にしたのもあり、3人でサニタルの町へと向かう旅を始めることにした。そのためアイシアさんに報告をした。


「アイシアさん、実は僕の故郷であるサニタルの町へ一時的に戻ることにしました。以前お世話になった孤児院に一緒にいた子が先日14歳の誕生日を迎え、孤児院を出たはずなんです。そのため町を離れ、遅くても1ヶ月後に帰る予定にしています」


「3人で行くのかしら?干し肉はあるの?生活魔法で水を出せる!?2人ともバン君に変な虫がつかないようにしなきゃだめよ!」「はい。戻ってきたら顔を出しますから、ちゃんと戻りますからって!」


 アイシアさんが変なことを口走っていたけど、前の日にちゃんと知らせてから町を出た。2人はアイシアさんの謎の言葉に「任せて」と返していたな。うん、虫に刺されないよう注意しよう!


 徒歩で3日ほどかかる旅は、僕にとっては見知った道のりだけど、2人にとっては新たな挑戦であり未知の経験のはずだ。これが良い経験になると良いな。


 まだ霧が町を包んでいる朝の早い時間に僕たちは出発した。途中野営はせず宿に泊まるつもりなので、荷物は最小限に抑えられていた。しっかりとしたブーツも買い、冒険に必要な装備に抜かりはない・・・はず。


 初日は穏やかな森を通り抜ける道のり。木々の間を吹き抜ける風が旅の疲れを和らげてくれる。1年以上前に通った懐かしい景色を背に、僕たちは歩いて行く。


 昼と夜の気温差があり、昼は動くと汗ばむ。しかし、夕方から夜にかけては1枚羽織りたい温度になるので、外套を持参していて、今は背嚢に入れている。


 ただし、僕らの背嚢は2つ。1つにはメリッサが自分の荷物、僕とミンディーの外套を入れている。もう1つは僕とミンディーの荷物だ。簡単な着替え、コップ、小皿などを入れ、水は生活魔法で賄うので、ちょっとした甘味とお弁当代わりのパンなどを入れている。それを僕とミンディーが交互に背負う。


 最初はミンディーがずっと背負うと言い出したけど、女の子にずっと背負わせるのは僕の良心が許さなかった。分かっているよ!これが単なるエゴだって。でもそれが僕なんだ。


 マジックバックというのがあるらしいんだけど、中に入れた物の重さがかなり減り、人1人ほどの物を入れても、赤子ほどの重さにしかならないんだって。稀にダンジョンの主を倒した時のドロップや、隠し部屋にあるアイテムの中から得られることがあるらしいけど、普通は自分で使うんだ。だから滅多に市場に出回らないし、出たとしてもオークションで少なくとも1000万gはするらしい。とてもではないけど買えないから、ダンジョンでドロップすることを祈るしかない。


 あのミスティックさんたちでも1つしか持っていないんだって。


 半日ほど歩いたあたりでメリッサの足が悲鳴を上げ始めた。彼女の荷物は僕が背負い、魔物が出たら荷物の軽い僕が即応し、ミンディーが荷物をその場に降ろして応戦することにした。


 太陽は頂点に達し、日中の暑さが僕たちを包み込んでいた。僕は汗を拭いながら、ミンディーとメリッサの様子を見ていたけど、違和感に気が付いたんだ。


「メリッサ、ちょっと待って」


 メリッサが少し足を引きずり気味に歩いていたのと、時折顔をしかめていたのに気が付いたのもあり僕は呼び止めた。僕の視線が足を向いているのを感じると、彼女は取ってつけたような笑顔を向けてきた。


「メリッサ、どうしたの?ひょっとしたら足が痛むの?」


「ごめんなさい。実は先程から足が痛かったのです。新しいブーツに慣れていないためか靴擦れがひどくなったみたいなのです」


「ミンディーは?」


 ミンディーも肩をすくめた。


「アタイも同じくらい痛いよ。でも、まだ耐えられるさ。気にすんなって」


 僕は2人の足を見ながら、アチャーといった感じに頭をかいた。自分自身に悪態をつきつつ背嚢から薬草を取り出す。有無を言わせずメリッサとミンディーのブーツを脱がせ、靴擦れで血が出ているところに薬草を貼り付けた。

 汚いですよとか、駄目ですとか言っていたけど・・・やはり靴擦れが酷かった。


「これで少しは楽になるはずだよ。でも、無理はしないで。」


「申し訳ありません。足を引っ張りました」


「うん。気にしないで。体力が落ちているのを考えなかったし、新しいブーツじゃそうなるよね。もう少し歩いたら町があるから、今日はそこで泊まろう。明日は乗合馬車か、お金を払って馬車を借りることにしよう」


 元々貴族令嬢であるメリッサは、自らの脚で町から町へと移動することがこれまでになかった。また、メリッサもミンディーも慣れない新しいブーツに靴擦れを起こしてしまった。


 これは新しいブーツでいきなり長い距離を歩かせてしまった僕のミスだ。


 予想外の事態に予定より手前の町に入ることにした。この町は宿場町であり、宿には小さいながら風呂がある。風呂といっても大きなたらいにお湯を入れるだけだったが、旅の疲れを癒すには十分だ。


 しかし、宿には3人部屋しか空きがなく、僕は真ん中のベッドになる。もう諦めたよ。

 部屋に荷物を置くと、2人にはゆっくり風呂に入り、疲れを癒やすように言った。とはいえ、風呂は男女別で1人しか入れない。そのため、僕とミンディーが先に入りに行った。

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