【辛口ヒューマンドラマ】雲にのりたい

佐伯達男

第1話

(ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…キーッ…プシュー…コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ…ピヨ、ピヨピヨ…カッコー、カッコー…)


時は、1986年5月29日の夕方5時半頃であった。


場所は、松山市中心部・大街道交差点にて…


電停えきに停まった路面電車トラムからおおぜいの人たちが降りた。


おおぜいの人たちが交差点スクランブルにあふれ出た。


私・都倉一徳とくらかずのり(27歳・フリーター)は、路面電車トラムから降りたあとアーケード通りへ向かって歩いた。


アーケード通りには、背広姿のサラリーマンたち・大学生たちのグループたち・若いカップルさんたち・男性客おとことドーハンで出勤するホステスさんたち…が往来していた。


行くあてもなく歩いている私は、銀天街〜松山市駅ターミナルへ向かおうとした。


この時であった。


三越デパートの近くにある明屋書店はるやしょてんの入口に設置されているスピーカーから歌が流れていた。


スピーカーから流れていた曲は、長山洋子さんの歌で『雲にのりたい』であった。


1969年に黛ジュンさんが歌っていた悲しい歌であった。


『雲にのりたい』がレコード発売された当時(1969年)、私は小学校4年生だった。


あの年はたしか、1月に東大安田講堂事件が発生した…


10月にプロ野球・東京読売巨人軍の投手だった金田正一さん(故人)が通算400勝を達成した…


その年のレコード大賞を受賞した曲は、佐良直美さんの歌で『いいじゃないの幸せならば』…


…だった。


ほか、なにがあったかはよくおぼえてないけど…


話は戻って…


あの歌(『雲にのりたい』)をじかに聴いたのは、小学校4年生の夏休みだった。


たしか、学年の夏休みの行事で興居島ごごしまに一泊二日のお泊り海水浴に行ったなぁ~


その2日目に、ばいしんじパーク(遊園地・今はないけど…)に行った…


その時に、園内のイベント広場で屋外コンサートがあった。


その時のゲストが黛ジュンさんだった。


あの歌は、コンサートの一番最後で歌っていた。


じかに歌を聴いた私は、涙をポロポロと流した。


時は流れて…


1986年5月29日の夜9時半を少し過ぎた頃であった。


ところ変わって、いよてつ郡中駅付近の商店街にある焼き鳥屋にて…


私は、とり皮(やきとり)と生キャベツをさかなにホッピーの中ジョッキをのんでいた。


店に設置されている18型のナショナルα2000(カラーテレビ)の画面にテレビ山口が映っていた。


この時間は、伝説の歌番組『ザ・ベストテン』が放送されていた。


画面は、4位と3位の間の看板コーナー『今週のスポットライト』に変わった。


ファンファーレにあわせて、登場口から当時18歳の長山洋子さんがスタジオ入りした。


それから2分後に、夕方頃に聴いた『雲にのりたい』がかかった。


「うううううううう…」


歌が始まったと同時に、私は泣き出した。


私は…


好きなカノジョがいない…


お嫁さんもいない…


帰る場所(妻子がいる家)もない…


一人ぼっちである…


………


私は、1959年11月30日に愛媛県今治市で生まれた。


私は、2〜3ヶ月後に実の母親から引き離された…


実の父親は、私が生まれてから4日後にジョーハツした…


実母から引き離された私は、愛媛県けんないにある乳児院〜児童養護施設と転々とした。


都倉姓は、私が小学校入学前に養子縁組が成立した時に名乗り始めた。


実家の家族は、養父母りょうしんとうんと年齢としがはなれた義姉あねふたりと私の5人であった。


1966年からおおかた小4までは親元から小学校に通っていた。


しかし、家族間の関係が悪化したことを理由に県外よそにある全寮制のガッコーへ移った。


小5から高校卒業までのエスカレーター式のガッコーにいるあいだ野球部に在籍したが、8年の間雑用ばかりをしていた。


高校卒業後にフゾクの4年制大学に進学したけど、ノイローゼを理由に休学した。


その挙げ句に家出した…


それが1978年の4月頃だった。


大学の寮から飛び出した私は、西日本のテレビのチャンネル数が少ないエリア(NHKと民放2局)…長﨑・熊本・鹿児島・宮崎・大分・山口・高知の7県と愛媛県の中予・南予方面の各地を転々とした。


それが1984年の3月末までつづいた。


その翌月、高校時代の先輩の紹介で松山市内しないにあるレジャー店に再就職した。


住まいは、いよてつ郡中駅のすぐ近くにあるロフト式のマンションである。


それから3年の間、マンションとバイト先を往復するだけの暮らしをつづけた。


しかし、心のどこかで限度が来たようだ。


私と同い年の子たちは、好きなカノジョを作って結婚した…


赤ちゃんが生まれてパパママになった…


勤め先の会社で、重要なお仕事を任された…


………


聞くだけでもうんざりだ!!


私は…


なんで悲しい人生を生きてきたのだろうか?


それを考えただけでも…


悲しい…


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