ショート小説

一宇 桂歌

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 ああ、どうすればいいんだ!

 このままでは明日か、明後日には、この失態が日本中に知れ渡ってしまうだろう。


 なんということをしでかしてくれたんだ!

 俺の店がグルメ雑誌に掲載されるので、その打ち合わせにしばらく外出したばかりに、弟子がビニールに入れたネズミ退治用の粉を誤って調理に使い、その料理を客に出してしまったという。

 俺は、十五の時からいいコックになるんだと、たとえ先輩から蹴られようが嫌味を言われようが、一心不乱に寝る間も惜しんで努力し独立して、去年やっと一つ星をもらったというのに。

 評判も客入りも上々。ようやく地位を確立したところまで上り詰めたというのにだ。

 その話を聞かされた時にはもう、ほとんどの客はすでに食べたあとだった。


 5分が経過した。


 客たちはまだ笑顔で、完食した余韻を楽しんでいる。

 弟子は「食べた客の様子は変わらないから大丈夫じゃなんじゃないですか」とぬかしおった。何をいう。即効性があったらネズミが食うわけないだろ。毒はゆっくり効いてこそ意味があるんだ。


 15分が経過した。


 まだ客たちの様子は変わらない。が、あの細身の女性は少しだけ様子が変だ。

 今すぐ救急車を。いや、どちらにせよ私の輝かしい名誉は終わりだ。

 俺は弟子に詰め寄った。

「いったいどのくらい使ったんだ?」すると弟子は言った。

「すみません。全部使いました」

 血の気が引いた。すみませんじゃないだろう。この大バカ野郎め!


 ああ、もうダメだ。俺のにこやかな笑顔でアップしている写真は、世間から容赦ない批判で大炎上し、間違いなく容疑者画像になる。それに、業務上過失で、下手すりゃブタ箱入りだ。


 そのときだった。カタカタカタとグラスや食器が合わさる音がした。

「あ、地震だ」そう言った次の瞬間、「ドドーン!」

 老朽化したビルが、一瞬にして崩れ落ちたのだ。私は気を失った。


 ——どのくらい時間がたったのだろうか。

 瓦礫の下敷きになったものの、俺はようやく意識を取り戻し、うめき声を上げながらも目を開け、ゆっくりと辺りを見回した。

 みんな、もう虫の息だった。あの、毒の粉を食べた客たちは全員死んでいた。

 ああ、助かった。神様、俺を助けてくれてありがとうございます!

 そう思った時、俺の右腕は潰れていたことに気がついた。




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ショート小説 一宇 桂歌 @mochidaira2000

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