第5話 殺人事件とかマジでやめてくれ

第五話 殺人事件とかマジてやめてくれ

 柔らかい朝日に照らされ、小鳥の囀りが耳を通り抜ける。

 俺は今、レスカの「家」へと来ていた。

 

 ことの発端は、昨日。レスカを追いかけた俺とイサネは、戦闘でのダメージにより、倒れてしまったらしい。

 なんとも情けないことに、ここまで運んでもらったというわけだ。


 そんなこんなで、俺たちはリビングのテーブルに集まる。

「で――この人たちは誰?」

 と言ったのは銀髪の少女。

「知らん。名前を訊いていないからな。」

 と言ったのがレスカ。

「えっと、俺は姫崎千春です――。」

 とりあえず、空気をよんで名乗る。

 

「え、――姫崎っ……お前の名前か。で、そっちのは。」

「私はイサネです。」

「なるほど。姫崎にイサネと。改めて、私はレスカ・エンド。そしてこっちは――」

「ザンリョウ・コンビクション。宜しく。」

 クセの強い名前だな。

 コンビクションて、信念とかそう言う意味だったよな。

「……いや、断罪の方。」

 そっちか――。じゃない!何故だ?心が読まれているのか?

「なんか勘違いしてそうだったから言った。」

 ビックリした。流石に――な……。


「さて、私は君たちに聞きたい。」

「どうぞ。」

「魔王を殺すというのは本当か?」

「はい。勿論です!」

 意気込んで言う。

「そうか。ここから北部へ行くには、本土へと渡らなければならない。南部は離島だ。」

「そうなんですね。」

 じゃあ船で行くのだろうか。

「行き方は船なのだが……」

 急に言葉の歯切れが悪くなる。

 嫌な予感だ。

「ちょっとした事件があってな。今運航休止になっている。」

「は?」


 え、ちょ、ちょっと待て。落ち着け。

 今は訊くべきことを訊かなければ。

「事件とは……?」

「殺人だ。」

 全ッ然、ちょっとじゃない!大事件だろ!

 いや、ひょっとしたら殺人はアズバリアでは珍しくないのかもしれない。

「そこまで足止め……ですか。」

「そうなるな。よし、私たちも本土に用事がある。ついていこう。」

 チートキャラ来た。ありがた。

「出航は未定だ。この街は広い。ゆっくり見て回れ。」


 ……と言うことで俺とイサネは、エレメントショップへ来ていた。

「在庫少なくね……?」

 あったのはサイクロンエレメント一つのみ。

 店主は頭を抱えて出てきた。

「すみませんお客さん。船が出航できないもので。あの船は貨物船も兼ねているんですよ。」

「そーなんでーすねー」

 適当に流していると。

「しかしなぁ。殺人とはまた。結構すごい事件でしたねぇ。5人も殺されたんだとか。」

「……え?5人も!?」

 そんなの初耳だ。

「犯人も捕まってないので心配で心配で……」

 まだ犯人は捕まっていない――か。

 このまま殺人鬼を野に放しておくわけにはいかない。

「店主、サイクロンエレメント、買います。それと――船に行くことはできますか?」



 タイタニック号のような大きさを誇るその船は、まさに豪華客船だった。


 あの後、港に案内された俺たちは、船の客席にいた。

 赤色で統一された船内は高級感漂う。

 

「事件について詳しく教えて欲しいです。」

 俺はこの世界の警察的存在に尋ねる。

「えーと、部外者に情報を渡すのはちょっと……」

「そこをなんとか……」

「上司に確認してみます。」

 そう言うと警官は、誰かに電話をする。

「――はい。分かりました。はい。――了解です。」

「……どうでしたか?」

 恐る恐る尋ねる。

「許可を取りましたので、お話しします。」

「宜しくお願いします。」


 話が長いので要約すると、犯人は身長180センチやせ形の男。監視カメラに映らない所を調べるほどの慎重な奴。

 全身は黒。マスク、帽子着用。顔は目しか見えない。

 犯行現場には、魔法を使った跡と銃らしきもの、薬のようなものが残っていたという。

 現場は五人がちょうど入れるスペースで、恐らく家族だろうと言うことだ。


「なるほどな――」

「警察の見解としてはこうです。犯人はその家族に恨みを持っていた。だから、銃を使う魔法を使ってその家族を殺した。」

 うん。典型的な動機だな。

「魔法を使うとその場に魔力が残ります。残魔力アリブルと呼ばれる現象です。その残魔力から個人を特定できる筈でした。」

 指紋的な感じかな?

「ただ、いくら鑑定しても、「この魔法は存在しません」と出るばかりで。解決は未だ出来ておりません。」

 なるほど。そりゃそうか。

 

「一つ良いですか?」

「何でしょう。」

「犯人はわざわざ、調ことをし、犯行に及びました。そこまで慎重に行動する犯人が、明るみに出るリスクを図ってまで、魔法を使うでしょうか。」

「なるほど。たしかにそうですね。」

「その、証拠品見せてくれませんか?」

「あ、はい。どうぞ。」

 銃らしきものは、無骨なスタンガンだった。

 薬のようなものは、睡眠薬だった。

 医大生にとっては何ともなかった。

 

「なるほど。死因が分かりました。」

「!?本当ですか。」

「はい。被害者は恐らく、睡眠薬の過剰投与により、死亡したと考えられます。」

「睡眠薬……?」

「僕の考えはこうです。犯人は被害者と争いになり、魔法を使われます。残魔力はそのせいだと思います。焦った犯人はスタンガンで、被害者を気絶させます。」

「スタンガン……?」

「気絶させた被害者に睡眠薬を過剰に投与させ、殺した。というシナリオです。」

「……で、犯人は――」

「こういう言葉を聞いたことはありませんか?『犯人は現場に戻ってくる』」

「つまり張り込み?」

 勘の良いイサネが言う。

「ザッツライト!そうすれば犯人が分かる筈です。」


 俺とイサネは、警察と共に犯人を逮捕するため張り込むことになった。これも早く本土に行くためだ。

 しかし、この事件がきっかけで、この世界と地球の関わりを知ってしまうことになるとは、この時到底思わなかった。

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