第3話 武器もないのに戦えと?

第三話 武器もないのに戦えと?

 朝日が、ひょっこり顔を出した。夜明けである。

 もぞもぞと寝袋から這い出した俺、姫崎千春ひめさきちはるは大きく伸びをする。


 昨日、イサネの家を出発した俺たちは、途中肆級フォース魔族に襲われつつも、無事寝付けたのだった。


 隣でも、イサネがもぞもぞと起き出す。

 俺は快活に言う。

「おはよ」

 あくびして。

「おはよー」

 イサネも返してきた。

 一通り朝食を済ませた俺たちは、今後について話し合う。


「千春がエレメンタリンクを持っているから、魔王を倒す手段は確保できたわね。でも――」

「でも、どうやって攻めるかだな。」

 俺はイサネの言葉を引き継ぐ。

「そうね。まだ私たちの戦力じゃあ魔王は倒せない。少なくとも、千春が使えるエレメントを増やさないとかな。」

「そうだな……」 

 イサネの属性である雷や、もともとあった炎は使えるが、これだけでは勝てないだろう。

 

「なんだけどさ、この世界にはね、魔族にも階級があるのよ。」

「あぁ、フォース魔族とか言っていた奴か。」

「そうね。他にもナインスエイスセブンスシックススフィフスサーストゥワイスワンス特級プレミアムがあるわ。」

「多いな。」

「そして、特級にあたる魔族は八崖神はちがいしんと言うの。」

「八崖神……」

 俺はその言葉を反芻する。

「エレメントを手に入れるためには八崖神を倒さないといけない。まずは八崖神の中でも最弱の、「剣豪のラビス」を倒しにいくわよ。」

「剣豪……?剣のエレメントが使えるようになるのか?」

「察しが良いわね。そうよ。ソードエレメントが手に入るわ。」

 なるほど。俺も武器は持っておきたいと思っていたところだ。ありがたい。

 

 そうと決めた俺たちは、剣豪のラビスがいるという「不屈の講堂」へと目指す。

 車がないのでかなり疲れたが、何とか半日でたどり着くことができた。もう既に日は傾きかけている。

 

「うわ……異世界によくありそうな建物だな。」

「んー私らの世界じゃ、普通なんだけどね。」

 それもそうだな。

 建物はいかにもといった感じで、中世ヨーロッパの王宮を彷彿とさせる城で、講堂とはかけ離れたものだった。

 中に入ると赤い絨毯が長々と敷かれ、その脇には剣を構え、鎧を着た防具たてがいくつもあった。

 剣豪だからだろう。

 さらに奥に進むと、大きな扉と出くわした。


「でっけー扉だな……」

「八崖神は一人一つ好きな住みかを与えられるの。」

「なるほどな。だからここには剣が多いのか。」

 ここに来るまでにも、壁に飾ってある剣や、床に刺さった剣があった。

「この先にいるんだな?奴。」

「恐らくは。千春、いくら八崖神最弱といえど、相手は特級。よーく警戒して。」

「ああ。もちのろんだ。」


 俺たちは扉を開けると、中に入る。

 目の前には玉座があり、そこに魔族がふんぞり返っていた。

「お前たちは……魔法戦士か。」

 低く、くぐもった声を発したのは、剣豪のラビスだった。


「分かったぞ。我輩を殺しに来たのだな。良いであろう。相手してやろうぞ。」

「上等だね。」

 俺は、三回目となる魔法を使う。

 せっかくだし、なんか掛け声つけようか。

 悩んだ挙げ句決めた俺は、右にバーン、左にフィジックを差し込み、蓋を閉じると、さっき考えた掛け声をいう。

「リンク!」

 ん?諸君、今ダサいって思ったか?

 二つのエレメントをリンクするからエレメンタリンク何だろ?なら良いじゃないか。


 俺の両手をガントレットが覆う。

 バーナーから火を吹かせながらパンチを繰り出す。

 相手は素早く飛ぶ。

 そして剣を抜くと、間合いを詰めてくる。

 相手が剣を振るよりわずかに早く、俺はパンチを入れる。

 相手は少したじろいた。

 

「思ったよりやるようだな……」

 そういったラビスは剣を二等分させる。

 二刀流になった剣は、素早さが増している。

 バーンフィジックでは追い付かなくなった俺は、右をスパークに入れ換える。

 スパークフィジックである。

 光速で動けるこの魔法は、相手の速さを圧倒する。

 パワーには劣るものの、物量で押しきった。

 スター○ラチナである。


 しかし、相手はすぐに体制を立て直すと、武器のリーチを使ってきた。

 ガントレットのリーチでは、相手に届かない。

 俺は一方的に攻撃される。


「どうだ。我輩の攻撃は。手も足も出んだろう。」

「っ……俺には武器がない。不公平だろ。」

「それもそうだな。よろしい。ほれ。」

 そう言うと、相手はエレメントと思われし物を投げてくる。

 かかったな。

 武道家というのはルールに厳しい。そして、公平を重んじる傾向にある。

 さて、反撃だ。

 俺は左をソード、右をバーンにすると、リンクした。

 左手側に魔法陣が現れる。

 右手を中にいれ、引くと、剣が出てきた。

 バーンソードである。

 

 ラビスのリーチ攻撃を全て跳ね返した俺は、燃えたぎる剣で相手を切り裂く。

 すかさず名前を考えた俺は、相手に隙を与えず言う。

 バーンとソードだ。

「いくぜ!バーンスラッシュ!」

 なんか普通でごめんよ。

 しかし、最大火力を秘めた一撃だ。

 相手はたじろぐ。

 これを食らって死なないのは、やはり八崖神だからだろう。

 「チェックメイトだ。」

 高らかに宣言した。


 しかし、俺はこの後、魔族に隠された秘密を知ってしまうことになる。

 それはまた、少し後の話。

 まだ沈みきれていない夕日が、淡く輝いていた。

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