第2話 俺がやるしかないということか

第二話 俺がやるしかないということか

「今から私の家に行くわよ」


 と、切り出したのはイサネである。

 俺、姫崎千春ひめさきちはるは家がないのでありがたい。


 木が喋る森(イツネ曰く「ツリースピークフォレスト」)などと言うおかしな場所から抜け出した俺たちは、イサネの家へと向かう。


「ここよ。」


 よかった。家がちゃんとしてて。

 しっかりと普通の一軒家といった感じだ。


 家へ入った俺は、イサネの指示で席に着く。

 イサネも向かい側に座ってきた。


「この世界はね、今大変な状態なの」

「へ……?どういうこと?」

「世界最強の魔法使いにして、この国「アズバリア」の王様が、魔王に乗っ取られたせいで魔法使いが殺されてるのよ」

「ころ――え?マジで。」

 魔王って残酷やな。

「そう。私たち魔法戦士はまだ狙われてないけど、それもいつまで続くか分からない……」

 魔法使いと魔法戦士ねぇ……ややこしいジョブだな。

「だから、お願い!私と一緒に世界を救って!」

 

 それってつまり――魔王を殺せっていうことだよな?

 ニヤリ――思わず口が笑う。

「殺ってやろうじゃんか!魔王討伐!!」

「!?本当に!いいの!?」

「乗り掛かった船だ。やるなら最後まで。徹底的に殺る。この俺に任せとけ。」




 魔王は王都にいるらしい。北側とのことだ。

 俺たちは、北側に向かって旅を始めた。

 ここからはひときしり平原続きだ。

 木の喋る森は南端である。

 そのため、北端にある王都に行くためにはかなり歩く必要がある。

 車が欲しい……。


 夜も更けてきたころミッドナイト、寝るしたくを整えていた時のことだ。

 今日から旅に出た為、キャンプなのだが、寒いので焚き火の周りに集まっていた。すると――


「そこのお前。それは――」

 声をかけられたかと思うと、俺の腕時計魔法道具を凝視してくる。

「なんすか……?」

「そいつぁ――伝説の……!」

「へ?は?えぇ……?」

「取り敢えず、魔王様に報告を……」

 

 なんだ?なんだ?なんなんだ!?

 思わず三回言ってしまった。

 いや、それどころじゃない。魔王に報告されると言うことは、命を狙われるリスクが高くなる。

 そうなってくると、我々の旅も安全ではない。

 ……まあ、魔王を殺そうとしている時点で、平和に終わる訳がないのだが。

 とにかく――こいつはここで殺さないとダメだ。


「まて!」

 声を張り上げる。

 イサネがビクッと体を震わせた。

「お前の言っていることは、こちらにとって不利と見なした。」

「だからなんだ。」

「ここで殺すしかない」

「俺を殺す?バカ言え。俺は肆級フォース魔族だぞ?勝てるわけないだろう。」

「フォース魔族……関係ない!」


 俺は二つエレメントを取り出し、に入れる。

 魔法陣が出現。

 すかさず手を入れる。

 手はガントレットに覆われる。

 お馴染みのバーンフィジックである。


「はっ……!?」

 イサネが何故か息を飲む。


「ったく。しょうがねぇ小僧だなぁ」

「知るか!くらえ!」

 パンチを叩き込む。

 しかし、あっさり避けられる始末。

「っ……速い……!」

 

 そう。速いのだ。これでは、パワータイプのバーンフィジックでは勝ち目がない。

「ダイブ・ドルア!」

 土を操って攻撃してくる。

 飛ばしてきた泥岩を破壊するので精一杯だ。

 追い詰められてきた。

 その時――

「ライトニング・フォース!」

 イサネだ。

 イサネの放った雷は、光速で相手にダメージを与える。

 するとイサネは俺に向かって何かを投げてくる。


「これ使って!」

「これは――?」

「雷のエレメントよ。早く!」

「あ、ああ!」


 俺はバーン・エレメントを抜いて、神々しい水色をしたエレメント、「スパーク・エレメント」を差し込む。

 また魔法陣が出現し、手を入れる。

 すると。

 炎をまとったガントレットから、電気をまとったガントレットとなっていた。

 足にも電圧が伝わってくる。


「行くぞ!」

 意気込んで。

「はっ!」

 掛け声と共に光速で走り出す。

 素早く懐に入り、パンチを一発。

 相手は体制を崩す。

 続けざまにもう10発。

 敵は後方へ飛ばされる。


 えーと、スパークとフィジックだから……

 技名を決めた俺は必殺技をお見舞いする。


「フィジック・ジェネレーション!」

 直訳すると拳発電!意味不明!

 拳はし、力が漲る……発電ジェネレーションだ!


 俺は素早く間合いを詰める。

 心臓めがけて拳をドーン!

 敵に高い電圧がかかる。

 相手は気絶した。

 心臓が電気ショックで麻痺してるのだろう。

 そのまま放置しておけば死ぬんじゃね。


「千春、ホントに強いね。」

「イサネ、助けてくれてありがとな」

「いいのよ。それよりも――」

「ん?どうした?」

「千春の着けてるそれ、『エレメンタリンク』じゃない!」

「エレメンタリンク?なんだそれ。」

「腕時計型戦闘システム『エレメンタリンク』。伝説上でしか存在しないと言われていた魔法道具よ。」

「そんなに、ヤバイ奴なのか?」

「この世界に知らない人はいないと言うくらい、ヤバイわよ。」


 どうやら俺は、神様クソ野郎に仕組まれてここへ転移したらしい。

 

「千春がこの世界の言葉が分かるのも、そのせいかもね。」

 なるほど。こいつのせいか。

「魔王に目をつけられたら厄介よ。何せ、魔王を倒せるのは、だからね。千春が頼りよ。」

「任せとけって。」


 とは言ったものの、俺は大変な運命を背負うことになった。

 さらに更けていく夜に息を溶かしながら、過酷な運命と立ち向かう覚悟を決めた。

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