第184話 迷宮最深部
最終階層は100階層だった。
階段を下りるとボス階層特有の巨大な門があった。門を押し開き100階層踏み込むと、そこは巨大な円形のフィールドだった。他の階層守護者の居る階層と同様に、俺達が中に入ると扉は勝手に閉まりすーっと消えていく。
空には満天の星。夜と言うよりも、星は瞬く事なく鮮明に輝いていたから、むしろ遥か上空から宇宙を臨む景色に見えた。
フィールドの向こうに垣間見える眼下には何処までも空が広がっている。その向こうには緩やかな曲線を描く地平線が広がっていた。ここは、きっと何処かの星の高所に存在するのだろう。単に模しているだけかも知れないが。空は分厚い雲に覆われていて地上がどの様な姿か迄は確認が出来ない。
美しい幻想的な景色だったからゆっくりと見ていたかったが、さして時を待たずして翼持つ天使の軍勢が襲い掛かってきた。
その軍勢は恐らくは1000を数える。さすがに最上級エリアに匹敵する階層だけあって、卓也達も全くの無傷と言う訳にはいかない。そもそも戦場となるフィールドは広さが限られるのだから、広範囲に効果を及ぼす攻撃を完全に避ける事は出来なかった。ここに来て、ようやくニコラさんに活躍の機会が来る。なにせ魔導アーマーの耐久性はHPで管理されるから、減ったHPは普通に回復効果のある神聖魔術で回復をするのだ。幾ら敵の攻撃が通ると言っても致命傷になる程では無かった。中には随分と派手な演出の攻撃もあったが、守護の奇跡と盾とで、殆ど軽減が出来る程度の攻撃だったのも幸いした。
天使の軍勢は、時間を追う毎にその強さと数を増していった。段々と手数で押し切られる様になる。手当たり次第に襲いかかって来る天使を撃ち落としつつ、その合間にニコラさんが神聖魔術を行使する。
俺は天使の迎撃には参加しなかった。てっきり災厄の竜の様に強大な魔物が襲ってくると思っていたが相手は数で攻めてくる。となれば、それが何時迄も同じ密度で続くとは思えなかった。実際に、時間を追う毎に敵の攻撃は苛烈になってくる。
その間の俺と言えば、皆が戦っているのを尻目にせっせと邪魔にならない様に工夫をしながらせっせと造成装置と迎撃装置を設置する。敵の攻撃の密度は増して行くが、それと同時に俺が設置する迎撃装置による火線の密度も増して行く。次第に敵の増援を、迎撃装置による殲滅速度が上回る様になり、2時間も経つ頃には皆は殆ど矢を撃つ必要が無くなった。設置した迎撃装置の砲塔から迎撃ミサイルが次々と間断無く放たれて、絶え間なく爆発音を響かせる。毎分100発に及ぶ巡航ミサイルが放たれるのだ。幾ら天使の軍勢が強大な力を持つと言っても物理攻撃が効くのであれば倒せない敵では無い。
中には物理耐性を持つ魔物も混じっていた。周りの天使よりも一際大きく、羽の枚数も多い。恐らくは指揮官クラスなのだろう。そんな敵も、上位の魔導タワーによる集中攻撃で問題無く対処が可能だった。
迎撃装置が増えれば足場が減るが、並行して造成装置による足場の構築も行っている。敵の攻撃で増設したフィールドが抉られる事もあったが、こちらも造成装置による足場の構築の方が速さで数段上回っていた。しばらくすれば足場の厚さも10mを超え十分な厚みを確保する。余裕が出てくればアダマンタイト製の床板で補強をしたので、一度卓也達に傾いた天秤は揺ぎようが無かった。
最後に出現したのは、12枚の羽を持つ巨大な天使だ。エターナルクラフトに存在しない魔物でも、一応名前は表示されるし、HPを確認する事が出来る。その魔物にはサタナエルと表示されていた。
サタナエルが12枚の羽を広げるとそれぞれが異なる色の魔力を帯びて、様々な魔法を放ってくる。だが、幸いな事にその攻撃は迎撃装置では無く卓也達に狙いを付けて放たれた。
恐らくはエターナルクラフトとは異なるアルゴリズムによるからだろう。仮に迎撃装置が攻撃されて破壊されたとしても卓也達に優勢な状況は揺るがなかっただろうが、卓也達を狙ってくれるのならニコラによる守護の奇跡に加えてオリハルコン製の盾、そして弾除け用にアダマンタイトで壁をクラフト済みだ。皆壁や盾を上手く利用して敵の攻撃を退けつつ、返す刀で矢を射かける。
敵は物理によるダメージはかなり通り難く感じる。しかも、どうも耐性がコロコロと切り替わる様で、特定の属性しかダメージが通らず、かつ有効な短い間に属性が切り替わるのだ。魔導タワーによる各種属性攻撃も行ってはいるが、敵の直前で魔力の障壁に阻まれて余りダメージが入っている様に見えない。実際HPバーも目に見える程には減少をしていなかった。
「卓也様、余り攻撃が通っていない様ですね」
「そうですね。せめて手が届けば良いのですが、相手はずっと空中ですからね。ちょっと対策を用意しますので、攻撃の手を緩めない様にお願い出来ますか?」
「はい、お任せください」
向こうの攻撃もこちらに有効なダメージを与えていないので持久戦の様相を呈している。時間さえ掛ければ多分やれるとは思うが、テコ入れをする事にした。
壁の影に隠れて魔導兵器工房をクラフトする。今の技術レベルなら15分程でクラフト完了だ。次いで、魔導アーマー用にヒヒイロカネで矢をクラフトする。
魔導兵器工房は20m四方と結構なスペースを必要とするが、天使達の軍勢との戦いを始めてから、かれこれ半日は経っている。その間に足場も大きく拡張をしているからスペースは十分に確保出来ていた。
何故ヒヒイロカネなのかと言えば、攻撃力もさる事ながら、ヒヒイロカネ製の武器には属性耐性貫通の特殊効果があるからだ。これなら相手がどんな耐性を持っていても問題が無い。
自分で使用するにはコスパが悪すぎて、とてもでは無いが鏃に使用するのは躊躇われる。しかしNPCなら一度作って装備をしてしまえば消耗をしないのだからコスパを気にする必要が無い。正直、NPCの矢弾は消費しないのはかなりシステムとしては問題がある様な気がする。まぁ利があるのはこちら側なので、今回に限った話では無いが最大限システムの恩恵に甘える事にした。
オーギュストさん、ブリアンと、順に出来上がったヒヒイロカネ製の矢を装備させる。2人の弓から放たれた矢は、今までとは異なり敵の障壁に一切阻まれる事なくサタナエルに次々と突き刺さった。
マリーズとニコラさんは補助に徹している。敵の大掛かりな攻撃が来る時はマリーズとニコラさんが障壁を構築する。合間に絶える事の無い様にオーギュストさんとブリアンの身体強化を行ったり、少しでもダメージを負ったならニコラさんが癒しの奇跡を行う。
俺にはHPの増減が目に見えているからダメージを受ければ直ぐに解るが、皆には見えない筈だ。にも拘らず敵の攻撃でHPが減ると、間髪を入れずに回復が飛んでくるのだから正直意味が解らない。ニコラさん曰くそこは経験なのだそうだが、経験でどうにかなる話だとは思えなかった。さすがフランシーヌを除けば正教会一の奇跡の使い手と言われているだけの事はある。
因みに魔法や奇跡の類は、恐らくはMPの様なものを消費するので本来は限界がある。だがエターナルクラフトではMPは存在せず、疲労に置き換わって表現されていた。スタミナバーが目に見えて減少するのだ。だがスタミナならば対処のしようはある。スタミナ回復薬をメニューからドラッグして使用するだけ。実際にポーションを飲む訳では無いから、戦闘中でもスタミナが減れば俺が勝手に回復させていく。
だから、いわゆるMP切れで詰む様な事も無かった。
まぁそんな訳で、大勢は決したと言える。ヒヒイロカネの矢を装備した事で、徐々にではあるが目に見えてHPが減る様になった。災厄の竜に備えて用意していた迎撃装置用の矢玉が尽きそうな勢いだったが、下手をすると災厄の竜に匹敵するか、上回る程の強さだと思うから出し惜しみはしない。
余り効かないのだから迎撃装置に矢玉を補充する必要は無さそうだが、たまに物理攻撃が通るタイミングが有り、大ダメージを与える事が出来るからそのまま撃ち続けた。耐性が変化するのは法則が有りそうだったが、タイミングを合わせられるほど器用では無いし、ちょっとずつはダメージを与えている様なので問題は無しだ。何と言う力押しか。ただ、こちらは魔導アーマーにクラフトの様々な恩恵があるからどうにかなっているだけで、人の身でどうにかなる相手だとはとてもでは無いが思えなかった。
いずれかのゲームの影響があるのなら、生身でこいつをどうにか出来る人達も居るんだろうなと思う。この迷宮が繋がった先に、そんな人達が居る世界があるのだろうか。正直、そんな人達とはお近付きにはなりたく無いなと思う。
サタナエルの討伐が完了したのは、体感でそれから更に3時間が経っての事だった。
◆Memo
巡航ミサイルはトマホークとか呼ばれる類の代物です。現実なら1発数10億する様なミサイルを、湯水の様に使用しています。毎分100発程で1時間で6000発。3〜4時間は撃ちっぱなしですので、2万発位は消費しました。流石に最後の方は弾切れです。これだけで現実なら数兆円が吹っ飛んだ計算になります。随分と景気の良い花火です。
因みにこれだけの火力で飽和攻撃をすれば、流石に災厄の竜も討伐が可能です。
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