第43話 再びギルドへ。領主と面会
さて、町を拠点化出来るのであれば、タレットと自動迎撃装置の設置について許可を取る必要があるだろう。さすがに勝手に設置する訳にもいかない。最悪は設置しても大丈夫かな?領主は癖のある人の様だが、どうだろうか。取り敢えずギルドマスターに相談してみよう。
こんな事なら、拠点に設置しているレジェンド等級のタレット位は回収しておいた方が良かった気もする。今から大蜘蛛の森の拠点まで往復する事も可能だが、丸一日時間を潰すのは勿体無い。今アイテムボックスの中にある資源でもそこそこの数は設置出来るので、そこは数でカバーをしよう。
家の中に作業台を幾つか設置して、一先ず大型クロスボウ用のボルトを大量に仕込んでおく。敵の襲撃は拠点の規模に応じて増えるので、町を守るとなるとどれ程の魔物が押し寄せるのか全く想像が出来ない。矢はどれ程あっても困らない筈だ。
その後はギルドへと足を運んだ。ニコラさんが居ればニコラさんに相談をするのが最善だと思うが、王都を経由して教会の本部へと戻るそうで既に旅立っている。昨日別れを済ませたばかりだ。ニコラさんやポール達も、何処かで魔物の襲撃に遭遇するのだろうか。無事を願うばかりだ。
矢弾のクラフトはその内完了するだろうから放っておいて、次がギルドだ。まさか2日続けてギルドマスターを尋ねる事になるとは。
ベアトリスさんに緊急の要件でギルドマスターに面会をしたいと声を掛けると、詳しい要件を聞かずに直ぐにギルドマスターの執務室へと案内をしてくれた。
受付で詳しい説明を省けるのは有り難いが、これで良いのかと少し心配にもなる。それだけ特別扱いをしてくれると言う事か。
「お忙しいのに、すいません。」
「いや、タクヤ殿が緊急の用事と言う位だから、余程の事なのだろう。ところで本日はどの様な御要件で?」
「はい、今日の夜、紅き月が上ります。付きましては、町の中に迎撃用の設備を設置する許可を頂けないかと。」
「何、紅き月だって!」
ギルドマスターが驚きの余り、ガタッと椅子から腰を浮かす。
目線が俺とフランシーヌとを行ったり来たりする。フランシーヌが黙って頷く。
ぱっと出たでの俺と実績のあるフランシーヌなら、フランシーヌの方が信用が置けるから当然だなと思ったが、そうでは無いらしい。
この世界では紅き月がいつ上るのか、事前に予想をする手立ては存在しない。周期も決まっておらず、エターナルクラフトの仕様とは異なり5日〜35日周期と言う事も無い。さすがにそれほどの短かい周期では無いが、数年から数十年に一度位の頻度で月が紅く染まる為、人々は何時起こるとも知れない魔物の大規模な襲撃に備えて生活をしている。それに、大陸全土に魔物が溢れると言う訳でも無いらしい。凡そ国を1つか2つ位覆う程度の範囲で発生するのだそうだ。
本来であればいつか来る襲撃に備えるべきだ。だが、人は何時来るともしれない襲撃に対して常に緊張を保ち続ける事は出来ない。結果、実際に紅き月が天に上った時、十分な対応をする事が出来ずに甚大な被害が出る事も少なくは無い。
防災に似ているなと思った。
数年以内に大地震が起きると予想されていても、人々の生活は変わる事は無い。首都圏なんて甚大な被害が出ると解っているにも関わらず、今も人口は増えているのだから不思議なものだ。
そして、きっと前震が起こったとしても、対処は間に合わないのだろう。常日頃から防災意識を高めて準備をと言ってもそれ位のものなのだから、案外この世界でも魔物の襲撃が何時かは来ますと言っても常日頃から備えるのは難しいのだと思う。
日本では大きな地震が起こる度に、大地震への影響は有りませんと報道がされているが、もし大地震の前進ですと報道をされたらどうなるだろうか。さすがに甚大な被害が予想される首都圏からの脱出は試みるのでは無いだろうか。それが遅きに失するとしても。
同じ様に大規模な魔物の襲撃が実際に起こるとなれば話は別だ。
紅く染まった月が上ってから対処するのと、この時間から対処するのでは出来る事も大きく変わる。だが、それを俺が言ったからと信じる事は難しい。誰にも予見することは出来ず、それが真実であると証明する事が出来ないからだ。
しかし、それを神託の聖女が予言をしたのなら話は別だ。フランシーヌが聖女である事を知っている人ならば、フランシーヌの言葉は時に神の言葉に等しい。
「フランシーヌ殿、それは神の予言でしょうか。」
ギルドマスターも、事が事だけに簡単に信用する訳にはいかないのだろう。当然の事だ。襲撃が有ります、と準備を備えて実際に月が紅く染まらなければ責任問題になるだろう。しかし、何処ぞの国の権力者と比べれば格段に判断が早かった。
「はい、主のお言葉です。」
「解った。直ぐに領主へ報告をするからご同行をお願い出来るだろうか。」
マスターはフランシーヌの言質が取れると直ぐに行動を開始する。それ程に、聖女としてのフランシーヌの言葉は重いと言う証左でもある。
しかし、フランシーヌはいつ神の言葉を受け取ったのだろう。ああ、俺の言葉だからフランシーヌにとっては神の神託に等しいのだろうか。システムメッセージが間違うとは思えないから、そこは俺も心配はしていないので大した問題では無いかな。
「勿論、構いません。俺も領主にお願いしたい事があるので、是非お願いします。」
その後はギルドマスターの案内で、慌ただしく領主の館へと訪問する事になった。
領主に面会が出来れば、迎撃装置の設置についての許可を貰えないかお願いも出来るだろうから、幸いだ。
ギルドマスターに先導して貰い、町の中心部へと向かう。町の中心部に足を運んだ事は無かったが、それは館と言うか、むしろ城だった。
町は魔物の襲撃に備える為、城塞都市として建築されている。町の周囲は5mはある分厚い壁で覆われている。町の行政が集中している中央部の護りは更に強固で、区画をグルッと囲う壁の高さは3m程だが、その周囲には深い堀が掘られているから水底からなら10m近くはあるだろうか。城壁で囲まれたその中に行政区画と領主の館がある。
領主の館の基礎は石積みの頑丈な造りで、その上にレンガ積みの堅牢な建物が乗っかっている。館と言うより小さいながらも砦か城の様相だ。
館の入り口で、ギルドマスターが至急の面会を求めると、直ぐに応接室へと案内をされた。さすがに応接室ともなれば多少也とも調度品が並べられているが、館の中は貴族の住む場所としてイメージしていた華美なものとは掛け離れていて、殺風景な位だった。
「領主様が住む屋敷と言う割には、何というか殺風景な場所ですね。」
領主を待つ間、ギルドマスターに尋ねてみる。
「ああ、有事の場合は最後の砦となる場所だからな。領主様が実際に住んでいるお屋敷は奥にあるので、そこはもう少し貴族らしい感じだが、こっちは実務を目的としているから機能優先だな。」
「他の町なんかでも、こう言う感じなんですか?」
「そうだな、それ程印象は変わらないと思うぞ。どこの町でも魔物の襲撃に合う危険性は変わらないからな。」
日本でも西洋でも城は軍事的な側面が強いから、そう言う意味では変わらないのかも知れない。
「待たせたな、ヘクター。それに聖女様も。何でも還俗をなされたそうで。」
ノックも無しに部屋へと入ってきて早々、やけに通る声でそう声を掛けて来た人物がこの館の主だろう。縁に装飾の施された、やや派手目な衣装を身につけていて、シャツの胸元のボタンが盛り上がった筋肉で今にもはち切れそうだ。身長は俺と同じ位だが、随分と体格が良い。こんな貴族然とした衣装よりも余程鎧姿の方が似合いそうな気がする。歳は30半ば位か。
「リュック様、急な訪問にも関わらずお時間をくださり有り難う御座います。至急、お耳に入れたい事が。」
どか、っと向かって奥の椅子に領主が腰を落とす。
「うむ、早速話を聞こうか。」
最近領主を継いだばかりで、難題を吹っかけてくる癖のある人物と聞いていたから、いわゆる貴族のバカ息子を想像していた。だが実際にこうして相対すると、鋭い眼光で値踏みする様にこちらを見ており、むしろやり手の青年実業家といった風情だ。成る程、仕事は出来る人と言う評価も頷ける。
「では、早速本題に入らせて頂きます。こちらの神託の聖女様より、神の予言が齎されました。本日、紅に染まった月が上るとの仰せです。」
「ほぉ、紅き月とな。うーむ、何故ニコラ様では無くヘクターから?ああ、ニコラ様は昨日出立をされたのだったな。」
「左様で御座います。故にまずはギルドへご報告を頂いた次第。」
「成る程な。しかしフランシーヌ殿、その言葉は誠であろうか?」
「我が主のお言葉をお疑いでしょうか?」
訝しむと言うよりも揶揄う様な、挑発する様な少し嫌な感じのする声音で領主が尋ねる。フランシーヌの語気も強まる。少々お怒りの様だ。神の言葉を疑われればそれも当然と言える。あれ、俺の言葉か?
「いやいや、神のお言葉を疑う等、そんな不遜な事は出来ぬよ。だが、フランシーヌ殿は既に教会から還俗をされた身。神の寵愛を受けし聖女殿が神の身元から離れるなど、何かあったのかと邪推をしてしまってな。」
「我が主の寵愛は、今なお私と共に御座います。お疑いとあれば、これ以上のお話は無用かと。辞させて頂きます。」
フランシーヌが腰を上げようとする。まぁ、待て。そっとフランシーヌの太ももに手を置く。フランシーヌと目が合うので、やんわりと頷いて見せる。
「リュック様、お戯れは辞めて頂こう。今はその様な事に時間を費やす時では御座いません。」
「ああ、済まないな。いや、フランシーヌ殿、別に他意は無いのだ。ただ、教会の庇護下から離れた聖女様の言葉に信を置けるのか、そこは確認をせねば今後の対応に関わるのでな。仮に神託だったとして、それは教会から支持は頂けるものなのかね?」
「おかしな事をおっしゃいます。神の言葉は神の威光によってのみ尊ばれるものです。本来教会とは何ら関係するものでは御座いません。」
「教会から聖女と認められたお前さんがそれを言うのか!だがな、それでは困るのだよ。」
まぁ先程の物言いには思うところはあるが、領主殿の言い分も解る。聖女が神託を受けたと喧伝したとしても、教会がそれを認めなければ民衆から支持を得る事は難しいだろう。教会にはそれだけの影響力があると言う事だ。極端な話し、聖女を信じますか?教会を信じますか?と言う事だ。
さて、どうしたものか。
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