第40話 ギルドマスターとの会話

過去の聖女がそれ程の偉業を成し遂げ、しかも下手をすると大陸が滅ぶような災害から救ったのだとすれば、今回の聖女がどの様な使命を持っているのかは誰もが疑問に思うのでは無いだろうか。


「過去の聖女と英雄がそれ程の偉業を成し遂げたのであれば、尚の事、フランシーヌがどんな役目を負ったのかは注目されるんじゃ無いんですか?」


「勿論そうだと思う。ただ聖女を後見する正教会は、これまでの功績を認められて数多くの国で国教として認められている。その影響力は非常に大きく、面と向かって正教会に問い糺すものは居ないだろう。ただ、フランシーヌ殿は既に教会から還俗されているので、今後は正教会の庇護下に無いと判断して余計なちょっかいをかけてくる輩が出て来る可能性は否定が出来んな。」


隣のフランシーヌに目で問うとにっこり笑みを浮かべながら頷き、ギルドマスターの言葉を肯定する。


「ですが些末な事ですから、卓也さんが気にされる程の事では有りません。」


「うーん、想像が出来ないけど、何があっても俺はフランシーヌを守るからね。」


「御心のままに。」


フランシーヌは相変わらず俺に全幅の信頼を置いてくれている。神への信仰あってだと思うが、信頼に答えられる様に頑張ろう。


「まぁ何かあればギルドを頼ってくれ。未来の英雄様の役に立てるのであれば、ギルドとしては、助力は惜しまない。」


「そう言う割には領主の無茶振りに振り回されている様に思えますが。」


ポールも領主のちょっかいに嫌気をさしてこの町に残る事を諦めた経緯がある。悪く言えば地方の領主程度に強く言えないギルドが何から守ってくれると言うのだろう。


「それを言われてしまえば申し開きもないな。ギルドとしてはタクヤ殿を矢面に出さない事が一番希望に叶うと思っての判断だったのだが。前回槍玉に上がったのはポール達、白金の鷹だからな。」


「そうですね、言葉が過ぎました。すいません。」


この場合はギルドマスターの言い分が正しいな。スパイダーシルクは俺が採取した物だと言えば、もう少し違った対応になった可能性は否定が出来ない。


「それはそうとその件だが、きっちり追加報酬の金貨500枚は領主に払わせたぞ。釘はさして置いたのでな、白金の鷹のメンバーにこれ以上のちょっかいをかける事は無い筈だ。それにこれ以上問題になるなら、ギルドとしては領主やそれこそ国王とだって相対する準備があるぞ。」


前回町を離れてから7日だから、思ったよりも仕事は早い気がする。それにギルドが領主の対応に責任を持つと約束をしてくれて、スパイダーシルクの報酬の金貨500枚を含めた預かり証を発行してくれたので、むしろ感謝をしている位だ。ギルドへの非難を口にはしたが別に思うところは無い。


「領主が余計な事をしなければ、ポール達がこの町で過ごす選択肢もあったのかと思うと、ちょっと気になったので。こちらこそ色々と配慮を頂いているのに申し訳ないです。」


「まぁそう言って貰えるとこちらとしても頑張った甲斐があると言うものだ。何かあればいつでも相談をしてくれ。」


ギルドは国からは独立した組織だ。魔物の脅威から人々を守る事を目的として組織されており、相手が国王であっても阿ることの無い立場を貫いているらしい。いざとなれば相手が国王であっても対決を辞さない覚悟はあるのだそうだ。そうは言っても俺も別段事を荒げるつもりも無いので、そんな日が来ない事を願おう。


取り敢えず聞きたい事は聞けたので良しとしよう。それはそうと、


「それはそうと、クイーンジャイアントスパイダーの素材はどうしますか?」


「それだな。討伐に成功した事は今更疑ってはいないのだが、かと言ってその素材をどうするかだな。希望があれば買い取りを行う事はやぶさかでは無いが、タクヤ殿の希望が如何かな?」


「前回色々と買い取って貰えたので、当面は資金には困ってないですね。」


「うちとしては利益になるので売って欲しい気持ちはある。だが物が物だからな。前回スパイダーシルクを領主に販売してから間もない。今クイーンジャイアントスパイダーの素材が持ち込まれれば当然注目を集める事になるな。さすがにそれだけの実績だと6等級に上げない訳にはいかないから、領主の認可も必要になる。」


「確かに、それはかなり面倒な気がしますね。」


「そうだろう。タクヤ殿の実力なら振り払う事は出来るだろうが、厄介事と言うのはそれはそれで面倒なものだ。面倒事を避けるのなら、あえて素材は持ち込まない選択肢もあるとは思う。」


「ギルドがそれで良いなら、しばらくは様子を見てみる事にします。それはそうと、実はフランシーヌに結婚を申し込みまして。養い親のニコラ様に、お礼と言っては何ですがこちらをお渡ししようかと思ってまして。ギルドとしては問題無いかなと。」


そう言って、テーブルの上に上質なスパイダーシルクを置く。これ1つで衣装を1つ仕立てられそうな程度のボリュームがある。1番の特徴は、一本一本の糸が細い蜘蛛の糸を撚って作られた物では無い事だ。布は単一の糸で織られているからその太さや品質に全くムラが無く、ましてや糸そのものの品質が良い。強靭性に優れ、耐毒、耐熱、耐寒性能も有している。

これで作った装備品の防御力は魔獣の皮や甲殻で作られた装備品を軽く凌ぐので、どれ程強靭かは容易に想像出来るだろう。


「これがクイーンジャイアントスパイダーの糸で織られた布か。素人目にも別格である事は解るな。成る程、ニコラ様に献上をすると言う訳か。ベアトリス、どう思う?」


「良き判断かと思います。ニコラ様と言えど、聖女を手放したと為れば糾弾する声も有りましょう。ましてや嫁入りをされるとあれば、タクヤ様の氏素性を勘繰る者も少なくは無いかと。その者からこれだけの品を献上されたと有れば、ニコラ様の地位も盤石な物になるかと存じます。」


「それ程ですか?」


実際にそうした目論見もある。領主がスパイダーシルクを国王に献上して評価を高めようと画策していた位だ。それよりも上質な代物なら、有効な使い方もあるのではと思った。ただ俺には政治的な駆け引きは解らない。ニコラ様は正教会の重鎮との事だったので、悪い様にはならないだろうと考えたからだ。

フランシーヌに相談もしてみたが、特に異論は出なかった。ギルドマスターに相談をしたのは、何のかんので便宜を図って貰った事に対する恩があるからだ。ジャイアントスパイダー関連の素材はこの町の特産なので、ギルドを通さずに素材を流した時に影響が無いか念の為確認しようと思ってだ。


「クイーンジャイアントスパイダーは、今の所討伐をされた実績が無い。国が出張れば倒せない事は無いと思うが、巣穴から出てくる訳じゃ無いから脅威度が低く見做されていて、国軍が動く程じゃ無いからだ。」


「倒せなくは無いけれど、非常に厄介な相手位の認識と言う事ですか。」


「間違っちゃいないが、ちょっと意味合いが違うな。領軍では対処できないが国軍なら対処出来る相手だ。」


つまりはこう言う事だ。

ギルドの等級は、魔物の討伐実績を基準に評価される。

6等級は、領軍程度の戦力が必要な程の脅威を対処した実績

7等級は、領軍では対応が出来ず、複数の領に危険が及ぶ程の脅威を対処した実績

8等級は、国軍相当の戦力が必要な脅威を対処した実績

9等級は、複数の国家が共同で当たる程の脅威を対処した実績

10等級は、国家レベルでも対処し得ない未曾有の脅威を対処した実績


「つまり、国軍が出張る程度の相手を討伐したとなれば、ギルドでの評価は単純には8等級と評価される。」


「あれ、6等級じゃ無かったんですか?」


「物事には順序があるんだよ。流石に6等級以上は段階をすっ飛ばす訳には行かないから、まずは領主の認可が必要になるんだ。その上で所領を束ねる上級貴族の認可を受け、最終的には国王まで報告を上げる必要がある。」


「面倒なんですね。」


「ああ。面倒だ。そして討伐された魔物から得られた素材は、討伐が可能な戦力や実績の明確な証となる。ニコラ様の権勢を盤石な物にするには充分な代物だな。」


思っていたよりは結構な代物だった様だ。

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