第97話 激重天才美少女
黒木のモーニングコールで目を覚ました俺は、制服に着替えて朝支度を済ませ、そのまま黒木と一緒に登校する。
玄関で母親が『これで諒太の将来は安泰だわぁ』と言っていたが……間違いなく勘違いされてるよな。
「ふふっ、諒太くんのお母さんには初めて会ったけど、結構若いんだね?」
「ああ。うちの両親は幼馴染カップルで、高校を卒業したらすぐ結婚したんだよ。だから同級生の親と比べたらいつも若く見えちまう」
「へぇ……なんかいいねそういうの。憧れちゃうなぁ」
そう言うと、俺の方をジッと見つめながら全く目を離さない黒木。
なんでこっちを見つめるんだよ……!
やっぱ黒木は俺のこと……好きなのか?
でも黒木の場合は思わせぶりで俺の勘違いだったみたいなこともあり得るし……。
(そもそも俺自身は、黒木瑠衣のことをどう思っているんだ……?)
最近は、黒木からBeRea●並みにいきなり多種多様なシチュの自撮りが送られて来るので、すっかり黒木瑠衣のことを身近な存在だと思っているが、本来は違う。
そもそも席替えをする前までは、俺はずっと黒木瑠衣のことをはるか遠い存在だと思っていた。
お淑やかで何をしていても品があって、端正な顔立ちに笑顔もめちゃくちゃ可愛い。
その上、勉強・運動・人望、何においても完璧であり常にトップクラスの成績を収める完璧超人。
俺の中の黒木のイメージはずっと、完璧超人の美少女・黒木瑠衣のままだ。
逆に席替え以降に変わった黒木の印象は、完璧主義すぎてたまーに見せる意地の悪いところと、いつも自撮りで見せつけて来るついなぞりたくなるどエロいヘソくらい。
黒木の場合は彼女の秘密や裏の顔を知ってもなお、完璧超人の美少女には変わりない。
そもそも俺が彼女に釣り合わないことくらい重々承知してるし、こうやって登校してるのも本来ならあり得ないことだ。
だから俺みたいな何の取り柄もない男のことが好きとか、いくら2度も助けられたという過去があったとしてもさすがに……現実味がないというか。
「諒太くん? 難しい顔してどうしたの?」
「ああ、ごめんな急に黙っちゃって。ちょっと黒木のこと考えてたっつうか」
「えっ……」
まぁこの件については考えすぎても、結局は黒木に揶揄われてるだけかもしれないし、深く考える必要はない……って。
「ん?」
ずっと横に並んで歩いていた黒木が、急に足を止めて後ろの方でぼーっと立っていた。
「どうした黒木?」
「……なんでもないよ? それより今日ってほんと暑いね。顔が熱くなってきちゃって」
やけに顔を赤くした黒木は、取り出したハンカチで額に浮かんだ汗を拭う。
「おいおい大丈夫か? 陸上部なのに暑さでそんなに顔赤くして、暑いの苦手なのか?」
「大丈夫! 大丈夫……だから、今は……先を歩いてもらえる、かな?」
「え? お、おう」
俺は言われるがまま先に歩き出し、黒木は少し後ろを歩いていた。
会話は突然途絶え、無言のまま登校する。
急にどうしたのかと思ったら俺に先を歩け? い、一体どういうことだ?
(もしかして……俺の身体が臭うとか?)
体臭って自分じゃ分からないって言うし、黒木は機転を効かせ、暗に俺へそれを伝えようと距離置いて歩きたいって言って来たのか?
夏場っていうのあるし、匂いは気にしないといけないが……あまりにも急すぎるだろ。さっきまで普通だったのに。
(仕方ない。今度優里亜にでも香水を選んでもらうか)
「あっ! 諒太おはよー!」
高校への道中、たまたま一緒に登校して来た愛莉と優里亜に鉢合わせた。
「お、おはよう二人とも」
「おはよ諒太。今日は瑠衣と一緒なんだ?」
優里亜は俺の背後にいた黒木の方を見て言う。
「うんっ、さっきたまたま諒太くんと会ったから一緒に登校して来たの」
また真っ赤な嘘をベラベラと……部屋まで迎えに来たのはどこのどいつなんだか。
「そーなん? てか今日の瑠衣、なんか顔赤くね?」
「へ?」
「確かに! 瑠衣ちゃん大丈夫?」
「だ! 大丈夫大丈夫!」
二人にも心配されてたじろぐ黒木。
珍しい構図だなこれ。
「そ、そんなことよりも愛莉と優里亜? もう再来週には期末テストだけど大丈夫なの? 昨日も勉強した?」
「うっわ。母親みたいなこと言わないでよ瑠衣。するわけないし」
「ふふーん。愛莉はしたよー? ね、諒太?」
「は? 諒太? なんで諒太なん?」
「え、えと……」
愛莉から急に話を振られ、優里亜からもワケを聞かれたら俺は、どう反応するべきか困る。
(え、昨日の勉強会って秘密の勉強会じゃなかったのか?)
昨日は黒木も優里亜も放課後に用事があるらしく、愛莉は勉強会のことを二人に言っていなかったようだったから、このまま勉強会のことは二人には話さないものかと思っていたんだけど……なんで話したんだよ愛莉!
仕方ない、軽く説明しておくか。
「実は昨日、海山と二人で——」
「諒太っ、呼び方呼び方っ」
やべ、そうだった……。
でも優里亜と黒木の前で呼ぶのは……やっぱり不自然すぎるというか……はぁ。
昨日の勉強会の時、愛莉が自分のことを愛莉と呼んでもらって喜んでいたのを思い出す。
まぁ、爆乳を見るのと交換条件なんだし、呼ぶしかないだろ。
俺は苦い顔をしながらも話を続ける。
「じ、実は昨日……愛莉と俺で勉強会をしたっつうか」
「えへへー、それでよろしい」
「「……は?」」
黒木と優里亜は唖然としながら声を重ねる。
特に黒木は、真っ赤だった顔が一瞬にして普段の顔色に戻っていた。
「あれれ……? 諒太くん、なんで愛莉のこと下の名前で呼んでるのかな?」
はい、やっぱりこうなりました。
顔はニッコリとしているのに、ペシャンコになりそうなほどに激重なプレッシャーを黒木から感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます