第81話 コスプレ事件の真相
優里亜から頬にキスをされた俺は、あまりの衝撃に動揺してしまう。
(優里亜の唇が、お、おお、俺のほっぺににに!?)
唇が触れた時、0距離で伝わって来た優里亜の体温と擽ったい鼻息、滑らかな肌。
頬っぺたとはいえ、俺にとってはほぼ唇にされたのと同じくらい刺激的なキスで、劇の真っ最中だというのに、脳内で優里亜の唇のことしか考えられなくなっている。
優里亜の唇クッッソ柔らかかったんだが!?
童貞陰キャにはチークキスでも刺激が強すぎるので、あれだけで全身から下半身に血が集まっていたが、スカートだったことが幸いして、その膨らみに誰も気づかれていない。
(もし仮にも俺が王子役だったら、パツパツのスキニーパンツのあそこだけ膨らんで社会的に死んでいたな……危ない危ない)
「ご気分はいかがですか?」
「え、あっ」
って、ヤバいヤバい、次は俺のセリフだった。
「お、王子様! ありがとうございます。貴方様の接吻で、ワタシは目を覚ますことができました」
その後も俺はキスの一件でボーッとしながら演技を続ける。
緊張とかよりももう優里亜の唇のことしか考えられなかった。
「こ、この運命の出会いに感謝し……ワタシは貴方を一生愛することを誓います」
最後のセリフを口にして、午前の部は幕を閉じた。
☆☆
午前の劇が終わり、午後の劇までは自由時間になった。
劇に出ていた面々は一旦、制服に着替えて各自文化祭へ繰り出して行った。
もちろん俺もトイレで制服姿に戻る。
(はぁ……もうこれ以上、恥を晒したくないのだが、あと一回の我慢だ)
着替え終わって、俺が体育館のトイレから出て来ると、体育館の前で黒木と海山が待っていた。
「お帰り諒太くん。お疲れ様」
「諒太凄かったよ!」
「あ、ああ……ありがとう」
俺にとってはただの黒歴史でしかないからか、素直に喜べないんだよな……。
「そうだ諒太くん。田中さんがこの後ぜひメイド喫茶に来て欲しいって」
「ああ、それはどうでもいいが、市之瀬は?」
「優里亜なら体育館裏でファンの子たちと撮影会してるよー。愛莉も優里亜と写真撮りたいのにファンの子多くてー」
「そ、そっか」
そういえば劇が終わった後に女子たちによって誘拐されるようにどこかへ連れて行かれていたっけな。
まだ優里亜は戻って来てないのか……。
「諒太諒太っ、優里亜は長くなりそうだし、先に奏ちゃんのクラスがやってるメイド喫茶行こうよー」
「え、えと……俺、白雪姫の衣装を置いて来るから先に行っててくれないか? すぐに行くから」
「そっか、了解っ! じゃあ瑠衣ちゃん行こー」
「うん。じゃあすぐに来てね、諒太くん?」
黒木と海山は一緒に校舎の方へ行った。
黒木だけは何か思うところがあるような目をしていたが、きっと黒木のことだから、優里亜にキスをされたことだろう。
キスされたあの場面。
観客席側へ隠すようにキスをすることになっていたから、観客席からは見えなかったし、舞台袖からも優里亜が顔をかなり近づけていたから、頬にしたかどうかなんて分からないはず。
元々顔を近づけるだけって話だったし、リハーサルでもそうだった。
だから舞台袖のクラスメイトは、まさか本当に優里亜がするなんて思ってもいなかったはず。
実際にクラスメイトは誰もそのことについて言ってこなかったし、そんなことよりも一回目が終わったことに安堵していた。
(しかし黒木なら……いや、考えすぎか。でも)
俺はそんなことで堂々巡りしながら、優里亜が来るのを体育館の横で待つ。
しばらくすると、体育館裏から優里亜のファンらしき女子の集団が来て、俺の前を通った。
「あ、ねえあの男子って白雪姫じゃない?」
「ほんとだ! ねえねえ写真撮らせて!」
女子の集団が俺の方を指差しながら近づいて来る。
うわ……マジかよ。ただでさえ劇で恥かいたってのに、写真撮られてSNSでばら撒かれた終わるんだが。
「ちょい、それはダメ。諒太は写真とかNGだから」
制服姿の優里亜が俺と女子たちの間に割って入って来る。
どうやら既に着替え終わったようで、王子の衣装を腕に掛けながらブーツを持っていた。
「あたしの写真ならSNSとかバンバンおっけーだけど、諒太はシャイだから。やめたげて」
「は、はいっ! ごめんなさい!」
優里亜が注意すると、物分かりが良いファンたちはすぐにその場から立ち去っていく。
「……ったく諒太が浮かれてるから」
「どうしてそうなるんだよ」
「だって女の子たちに囲まれて満更でもないって感じの顔してたし」
「それはまぁ、ちょっとは……な?」
「な? じゃないし。ほんと、これだから諒太は」
優里亜は呆れてため息を溢した。
これだからってなんだよ。
「でも劇やってる時の諒太いい感じだったよ。演技も慣れて来て、見てて安心した。そのおかげであたしも本気でやれたし」
「……そう、か?」
「てかあたしなんてステージ立つ前に緊張しちゃってさー。後からみんなに、出る前の目つき凄かったって言われたし」
確かに舞台袖にいた優里亜の目つきは鋭くて、険しかったようにも見えた。
「それと……さ、諒太にしたキスのことなんだけどさ」
「……っ!」
急に触れづらい話題を持って来る優里亜。
「あ、あれはご褒美ってやつ? 諒太めっちゃ頑張ってたけど、緊張気味だったからちょっと揶揄ってあげよっかなぁ、みたいな?」
「そう、だったのか?」
「そうそう! だから、別に変な意味じゃないんだけど……ちなみに諒太は、あたしにキスされて嬉しくなかった?」
そ、そんなこと聞かれてもな。
童貞陰キャの俺からしたら嬉しい嬉しくないというよりも……。
「なんつうか俺、今までキスとかされたこともないからさ……素直に興奮したっていうか」
「は、は? こ、興奮!? 何言ってんの!」
「いや、俺は率直な感想をだな」
「もっ、もうしてやんない! ふんっ」
「はあ?」
よく分からないが優里亜を怒らせたらしい。そもそも優里亜のアドリブキスが原因なんだが……なんでそんなに怒ってるんだか。
「なぁ優里亜、それよりみんなが田中のクラスのメイド喫茶に行ってるから、俺たちも早く行かないか?」
「め、メイド喫茶? メイド喫茶……かぁ」
「なんだよ。嫌いなのか?」
「別に嫌いってわけじゃないけど……メイド服に嫌な思い出があるというか」
「嫌な思い出?」
「朝登校して来た時に瑠衣が言いかけたやつ、あったっしょ?」
それって……みんなが口を揃えて悲しい事件とか言ってた優里亜のコスプレ喫茶事件か!?
「それについてぜひ詳しく!!」
「なんその反応…………ほ、本当は話したくないんだけど、まぁいいや」
優里亜はため息混じりに言うと話し始める。
「実は去年やったコスプレ喫茶であたしはメイド服を着る予定だったんだけど、ネットで買ったコスプレ用のメイド服のスカートの丈が結構短くて……それに比べてあたしの太腿って、ちょっとデカめじゃん?」
どう見てもちょっとどころじゃないだろ。
高校で一番太くてエロいのは優里亜の太腿で間違いないぞ。
「もう買っちゃったし返品するのもだるいから文化祭当日そのメイド服を着たんだけど、太腿のアピールが半端なくなっちゃってさ。生徒指導のオバサン先生に性的刺激が強すぎるから、あたしだけコスプレ禁止とか言われて結局地味ジャージで接客することになって……ほんと、最悪だった」
「な、なるほど」
今、全ての謎が解けた……。
つまり優里亜の太腿にはR指定が必須というわけか。
「ちなみにそのメイド服を今度着て貰うことって」
「着ると思う?」
「あ、はい。すみません」
殺気の籠った目が向けられ、俺はすぐに謝罪する。こっっわ。
「まぁ? あたしは諒太の気持ちも理解できるし……もし今度ウチに来てくれるなら……その時に少しだけ着てあげても」
「行く」
「いや、即答キモいし」
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