第45話 愛莉は可愛い。どこまでも。
「おっ待たせー! さ、行こっか諒太」
「ああ」
俺は頷きながら制服姿で戻って来た海山とタツヤから出て、目的もなく駅の方へ足を進めた。
「てか諒太どしたの? 急に愛莉のバイト先に顔を出すなんてビックリだよ」
「ご、ごめん! 海山。本当はバイトが終わる時間を聞いて、バイトの後に少し話したいと思ったんだが……店長が」
「いやいや、バイト途中で終わって給料も出るとか愛莉めっちゃ嬉しいし! あと諒太とお出かけできるからもっと嬉しい!」
「み、海山……」
海山は純粋無垢な笑顔と共に無自覚系主人公みたいにスラスラとキュンとするセリフを口にする。
バルンバルンと縦に揺れているこの爆乳も魅力的だが、海山は常にプラス思考だから話していて元気をもらえるな。
「で、今日はどこ行こっか? とりま愛莉の行きつけの場所向かっちゃう?」
「行きつけ?」
「うん! 小学生の頃からよく行く場所がこの近くにあるから。久しぶりに行きたいなって」
「わ、分かった。じゃあそこへ行こう」
とりあえず目的地が決まり、海山に案内されながら『行きつけの場所』とやらに向かった。
「それで愛莉に話って何かな? 良いこと? それとも悪いこと?」
「どっちなのかは俺も分からないが……劇のことで聞きたいことがあって」
「劇?」
俺は小さく頷いて、本題に入る。
ここではっきりしておかないと、モヤモヤして気が気じゃない。
それに……優里亜と黒木の間に何があったのか、正直言うとめっちゃ気になるのだ。
「結局王子役は市之瀬と黒木のダブルキャストになったが……決める時、どんな感じだった?」
「どんな感じって……諒太は優里亜と瑠衣ちゃんの二人が王子をやることになったから、気になってるの?」
「そう、だな。でも俺、それを聞ける女友達が海山しかいなくて……」
「えへへ、愛莉だけかぁ。なんか嬉し〜」
海山はニヤニヤしながら、並んで歩く俺の右肩に自分の左肩をぶつけて来る。
リアクションがいちいち可愛いなおい。
「決めた時の話、だよね?」
「お、おう」
「王子を決めた時はー、最初みんなが瑠衣ちゃんを推しててー」
そりゃそうだわな。
黒木瑠衣は劇の内容を全て提案した上に、あの美貌を持つ完璧超人だ。
男役とは言え、彼女以上の適任者はいない。
「でもね、優里亜が瑠衣ちゃんは『大事なインハイが近いから』って、心配して代わりにやるって言いだして……優里亜、優しいから」
インハイのことは火野が言った通り、心配されていたのか……。
「それで、どうして二人がやることになったんだ? 今の話の流れだと優里……じゃなくて市之瀬になりそうだが」
「うん。実はその後ね、周りが瑠衣ちゃんにやって欲しい派と優里亜の意見賛成派の真っ二つに別れちゃったの」
「は、はあ?」
どうしてそんなことになるんだよ。
優里亜の意見は真っ当だし、黒木のためを思うなら優里亜の意見に賛同するものだと思うが……。
(黒木をどうしても王子役で見たいと言う、女子側のガチ恋勢とかがいたのか?)
「それで結局、話がまとまらないからいっそのことダブルキャストにして、瑠衣ちゃんの負担を減らしつつ、優里亜もやることで宣伝にもなるし、それで行こうって話に落ち着いたっていうか」
「めちゃくちゃだな……黒木は何も言わなかったのか?」
「瑠衣ちゃんは『陸上と両立できるから大丈夫』って優里亜に言ってたけど……優里亜にやって欲しい派も結構いて、あまり強く出れなかったみたい」
一応、このクラスにも黒木に逆らう勇敢なレジスタンスがいたってことか。
まあ結果的に黒木も王子をやるってことになってるんだから、俺にとっては不都合すぎるが。
「とまあこんな感じ。二人の相手役は大変だと思うけど、愛莉も小人役として、お姫様の諒太を支えるからねっ」
「あ、ありがとうな、海山」
そういえば、海山も海山で結局やりたがっていた小人(
まぁ、海山の
「おっ、ちょうど着いたね、愛莉の行きつけの場所っ」
海山は目的の店に到着したら、足を止めて店の看板を指差す。
「ここはね、愛莉が大好きな駄菓子屋なのっ」
だ、駄菓子屋……!?
てっきりスノトみたいなのを想像していたんだが!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます