第26話 困惑のスノートップスデート


 高校に一番近いスノートップス(通称・スノト)は女子生徒を中心として、いつも大人気である。

 落ち着いたスノトの店構えと、店内には華やかな見た目のJKたち。


 俺のような陰キャは一人もいないし、田中みたいなコラボカフェにしか行かない根暗オタク女子もいない。


(こんなところに俺みたいな陰キャオタクが来てもいいのか?)


 あ、明らかに場違いだろ。


「愛莉は抹茶とモモのでー、諒太は?」

「え、えっ?」

「抹茶とメロンのでいい?」

「え、あ、お、おお、おお!」

「もお、なんで緊張してるの?」


 入店時から挙動不審だった俺は、オーダーの時も海山の隣でガチガチになっていた。


「抹茶とモモのフラッペと、抹茶とメロンのフラッペでよろしいでしょうか?」

「はーい。お願いしまーす」


 俺はガチガチだが海山のおかげでなんとかオーダーは済ませ、支払いは俺が済ませる。


(やはり陰キャにとってのスノトは完全にアウェー、ビジター、敵陣)


「ったく諒太ったら。スノトなんかで緊張してんのー?」

「み、海山は陰キャのことを知らなすぎだ! ここには陽キャしかいない完全アウェーな環境なんだぞ」

「はあ? 陰キャとか陽キャとか愛莉には良く分かんないんだけど」


 はぁ……これだから美少女グループのお嬢さんは。


「仮に愛莉が陽キャなら諒太も陽キャじゃん! 諒太は愛莉と仲良しなんだしっ」

「いや、陰キャだ」

「なんでよ!」


 そんな会話をしていたら、受け取り口に俺たちのフラッペがトレーに乗って出てきた。

 俺はそのトレーを持ちながら、海山と席を探す。

 俺たちが席を探していると、周りにいた同じ高校の女子たちから必然的に視線が集まる。


「え、あれ愛莉ちゃんじゃない?」

「ほんとだ。もしかして彼氏とデート? 意外と彼氏はあんまりイケメンじゃないね」

「うう、僕の愛莉たん……はぁはぁ」


 もうこの手のヒソヒソ噂話には慣れたのだが、それでも俺を彼氏と思わないで欲しい。


「ここにしよ、諒太?」

「え、お、おう」


 海山は窓際にある二人席を選んで座った。

 俺はトレーをテーブルに置いて、海山と差し向かいで座る。


「いただきまーす」


 海山は両手でフラッペのカップを持つと、幸せそうにチュルチュル吸っている。

 そんなにこれが美味しいのだろうか。


(ホイップクリームが溢れそうなくらい乗ってるし、メロンの果肉と抹茶でエグいほど緑だし……見るからにヤバそうなんだよなぁ……)


「ね、周りの子たちは諒太のことを愛莉の彼氏だと思ってるみたいだよ?」

「ああ、そうみたいだな」

「彼氏とかいたことないから分かんないけど、愛莉と諒太みたいな距離感でも、付き合ってるように見えるのかなぁ?」


 見えないだろ普通……と言いたいところだが、野次馬はいつだって騒ぎたい生き物。

 とどのつまり、周りの奴らはキャッキャと騒ぎたいから、俺みたいな陰キャでも彼氏という体にして噂話をしたいだけなのだ。


 どうせ俺がもっとブサ男で海山に不釣り合いな男だったとしても、奴らは俺を彼氏だと思うだろう。


「そういや海山って本当に彼氏いなかったんだな」

「当たり前じゃん! 彼氏の設定はバイトのこと隠すための設定!」


 海山のスペックからして、本当に彼氏がいてもおかしくないので、これまで本当に嘘かどうか判断しようがなかった。


 こんな真っ赤な嘘をつくくらい、バイトのことを知られたくないのか……。


「今朝黒木の前でヨウタって言った時は肝が冷えたぞ」

「ああ、あれ? あの時は瑠衣ちゃんに彼氏の名前聞かれてめっちゃビビって、咄嗟に浮かんだ名前が『ヨウタ』だったっていうか」

「な、なんじゃそりゃ」

「愛莉にも分かんない! てかさ! 瑠衣ちゃんと言えばアレの話をしないと!」

「アレ?」

「"いいこと"の話しよっ」


 そうだ。スノトの緊張で忘れかけていたが、いいことってヤツの話をしないとな。

 海山はフラッペを一旦置くと、スクールバッグからスマホを取り出す。


「愛莉ね、瑠衣ちゃんにも諒太と仲良くなって欲しいなって!」

「は、はあ」

「それに瑠衣ちゃんにもその気があるなら、まずは諒太とコニケーションを取ることが大切だと思う!」

「コミュニケーションな」

「ああ、それそれ」


 なんかバカっぽい空気がプンプンして来たな。

 そもそもコミュニケーション? どういうことだ。


「そこで! 愛莉が考えついた『いいこと』っていうのはー、じゃんっ!  『limeでコミニケーション大作戦!』です!」

「だからコミニケーションじゃなくて、コミュニケーション……っな゛!?」


 海山はスマホでlimeのアプリを開きながら発表する。


(い、今、limeでコミュニケーション大作戦とか言ったか!?!?)


「limeなら諒太も瑠衣ちゃんも話しやすいと思うんだー? まずはlimeで仲良くなって、徐々にリアルでも仲良くなれば最高じゃん!」

「お……おお」


 絶対に無理だし、何よりも問題は……。


「ってことで、まずはlimeを交換してみよー!」


 既に黒木とアカウントを交換してしまっているのもある意味で問題だが……それよりも問題なのは、


(lime交換済みの事実はまだしも、俺と黒木のトーク欄には——があるッッ!)


「さ、諒太もスマホ出してー」


 あの画像を海山に見られたら……間違いなく俺は……終わるっ!


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