第7話 子豚奪還作戦

「ごめんなさい!コブちゃんさん、きっと私と間違えられてブタフィの親衛隊に連れて行かれたんだわっ!」


三人の話を聞いていたイベリコが、突然声を震わせその場に泣き崩れた。


「イベリコ……」

「すべて私のせいです!私が皆さんと一緒にいたばっかりに!」


子豚がさらわれた事に責任を感じ、泣きながら詫びるイベリコに三人は少なからず驚いた様子であったが……やがてそのイベリコに対し、シチローが優しく微笑みを浮かべ言った。


「泣いてたって何も始まらないよ、イベリコ。……それより、そろそろオイラ達に話してもらえないかな?……全部」

「えっ、全部……?」


予想外のシチローの台詞に、涙目のまま顔をシチローの方へと向けるイベリコ。


「そう!なぜ、そのブタリア王国のブタフィ親衛隊とかっていう連中がイベリコを攫おうとしていたのか?……君は、ブタリア軍と何の関係があるんだい?」


この時、シチロー達はまだイベリコが亡き国王の娘だという事実を知らなかった。だが、今回の誘拐事件に一国の軍の親衛隊が絡んでいる事からもイベリコが何か特別な事情を抱えている事を、シチローは探偵ならではの嗅覚で感じ取っていたのだ。



♢♢♢



「えええ~~~っ!!イベリコってお姫様だったのおおぉぉ~~っ!!」


イベリコの口によって告げられた衝撃的な事実に、シチロー、てぃーだ、ひろきの三人は大声を上げて驚いていた。


「そうです。今まで隠していてごめんなさい……」

「国王が亡くなって、王妃もいないって事は……イベリコがブタリア王国って事じゃないか!」

「すごいね!ホンモノの王女様なんだイベリコ~」


キラキラと輝く尊敬の眼差しで素直に驚くひろきの様子に、イベリコも少し照れた表情を見せる。


「ま…まぁ、そういう事になりますね……」


そうなると、あのブタフィ親衛隊がイベリコを狙う目的は、おのずと推測が出来る。


「つまり、現在のブタリア王国で実質的な権力を握っているブタフィ将軍は、この期に乗じて王家であるイベリコを自分達の軍側に取り込み、名実共にブタリアの最高権力者に君臨しようと企んでいる訳ね」


そんなてぃーだの見立ては、おおよそ的を得たものであった。その後をシチローが続ける。


「それで、イベリコがこの場所にいるという情報をどこかから仕入れ、事務所を襲撃して来た。………ところが、奴らがイベリコだと思って攫って行ったのは実はイベリコじゃ無くてコブちゃんだったって訳だ……」

「じゃあ~コブちゃん、王女様になるの?」

「……え?………」


不意にひろきが口走ったその台詞に、シチローとてぃーだが顔を見合わせた。


二人の頭の中には、トランプの『K』の絵札のように子豚の様子が浮かんでいた。


「いやいや、いくらイベリコに瓜二つって言っても絶対にバレるわよっ!」

「もしバレなくても、それじゃあブタリア王国の国民が可哀想だっ!」


子豚がここにいないからといって、シチローとてぃーだも好き勝手な事を言っている。


「とにかく、コブちゃんを助けないとな……イベリコ、奴らの居場所は見当つかないかい?」


シチローはイベリコに親衛隊の居場所を尋ねるが、イベリコは顔を曇らせ答えるのだった。


「もう遅いわ……あのせっかちなブタフィ将軍の事だから、コブちゃんさんはきっと、軍の輸送機の中で今頃は空の上だわ……」

「えっ!!そんなに早く帰っちゃうの!」


イベリコの答えは現実的なものであった。軍の作戦において、迅速な作戦遂行は最優先とされるべき事項である。姫(実際は子豚なのだが)の誘拐に成功した親衛隊が、まだ夜のうちに少しでも早くブタリアへの帰国に向けて行動を開始している事は、充分に考えられる事であった。つまり、子豚を救出する為にはその行動の場所を日本からブタリア王国へと移さなければならない。


チャーリーズエンゼルパイ結成後、初めての海外での仕事である。


「やったあ~海外旅行だぁ~~」

「ひろき、旅行じゃなくてこれは仕事だから……」


両手を挙げて喜ぶひろきに、てぃーだがなだめるように呟く。


一方で、海外と聞いて、先程からシチローが辛辣な表情で腕組みをしていた。


「う~ん……海外かぁ……今は円安だし結構、金がかかりそうだなぁ……」


森永探偵事務所の経営者としては、このブタリア王国への全員の旅費と滞在費はかなりの負担となる。


「ちょっとシチロー!まさか、行かないとか言わないでしょうね!」

「コブちゃん捕まっちゃったんだよ?」

「ごめんなさい…シチローさん……私、今なにも持ち合わせが無くて……」


てぃーだとひろき、そしてイベリコの期待に満ちた眼差しを一心に受け、覚悟を決めたシチローが顔を上げて力強く叫んだ!


「よし、わかった!こうなったら、オイラも男だっ!


……ネットを総動員して、ぞ~~っ!」

「……セコっ!」


こうして、チャリパイandイベリコによる『子豚奪還大作戦inブタリア』は開始されたのだった!











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