痛いものは痛いっ

澄瀬 凛

痛いものは痛いっ

 物騒な仕事を終え、いつものように適当なホテルの前へ送迎。彼の背中を見送ったあと、明日の仕事の件で伝え忘れていたことがあったのを思い出し、再度彼の姿を追った。


 彼が現在ねぐらにしている一室のドアの前。ノックもそこそこに扉を開くと、目に入ってきたのは、その巨体をうずくまらせ、唸り声を上げる姿。足元には、彼が愛用している、薄いレンズのサングラス。


「いっ……てぇ」

「テルさんどうしましたっ」

 まさかこの短時間で同業者の襲撃にでもあったのか。


 あきらに向かい、上げた顔。その目はわずかな涙で潤んでいた。彼が涙を浮かべる姿など、かれこれ二十年以上の付き合いである輝でも、初めて見る光景だった。

 骨が折れようとナイフで刺されようと銃弾が体にめり込もうと、その相手を返り討ちに合わせるような男なのに。


 テルが涙を滲ませながら恨めしそうな表情で指を指した先を見て、輝はおもわず、笑いだしてしまった。

 彼が殺意を浮かべんばかりの形相になろうと、しばらくはそれを止めることができなくなった。


 殺し屋歴うん十年。こなした依頼は百、二百はくだらない。そんな怪物じみた大男でも。



 部屋の角に足の小指をぶつけるのは、やっぱり痛いらしい。

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痛いものは痛いっ 澄瀬 凛 @SumiseRin

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