石鹸に興味津々

 エマに石鹸の作り方を教えてもらおうと考えていたカレンだったが、たとえ石鹸が異世界の物といえど作り方まで知っているものなのだろうかと、ふと疑問に思った。


「ねぇ、エマ。石鹸の作り方って…知っていたりする?」

「作り方?…実は私小学生の時、夏休みの自由研究で石鹸作ったことあるんだよねぇ~!だから作り方知ってるのよ。凄いでしょ?ふふっ」

「よかったー!知ってるのね?是非教えてもらいたいのだけど、大丈夫?こちらの世界で作ることができれば絶対売れると思うのよね。私、こう見えて商人だから」

「あ~、商会の一人娘って言ってたね、確か」

「そうなの。ブラウン商会っていうのよ。ところで、さっき小学生の頃石鹸を研究して作ったって言っていたけど、小学生というのはエマが就いていた職業の名前かしら?」


「小学生?そっかそっか、ここ異世界だもん、通じないよね。私の住んでる日本という国は、子供の頃から学校に通うの。6歳からの6年間が小学校、12歳からの3年間が中学校、更に3年間が高校という感じで長期間勉強するんだよ。ちなみに私は今、高校3年生だよ」

「学校に通っているということは、エマはお貴族様だったの?私の国では平民は学校に通えないし、子供の頃から働いているから…」

「そうなんだ……日本では子供は全員学校に通う義務があるの。中学校までが義務教育ね。あと、私も平民なんだけどね」

「あ、平民だったのね。それにしても子供全員学校に通うだなんて凄いのねぇ…」

「まぁ…異世界だと色々と違うけど…この世界と日本では同じ石鹸使ってました~っていうのも面白くない?私が作り方教えてあげるから心配しないで。まずは材料集めからよね」


 倉庫に戻り、準備しなければならない物を書き出していく。


 手作り石鹸は、基本的には水・苛性かせいソーダ(水酸化ナトリウム)・オイルだけで作れてしまうのだ。お好みで香料を加えるのもいいかもしれない。あとは道具だ。

 準備する道具は、耐熱性ガラスボウル、耐熱性計量カップ、キッチン用はかり、ステンレス製の型、料理用の温度計(2本)、泡立て器、ゴムべら、スプーン、かき混ぜ棒、ゴム手袋、保護メガネ、マスク、クエン酸水または酢用のスプレーボトル、古新聞


「書き出してみると結構必要な物が多いわね…この世界で調達できるのかどうか分からないから、取り敢えず最初は日本の道具で作ってみるのはどう?道具なら私の家に全部揃ってると思うし」

「ありがとう、助かるわ」

「問題は原材料の方ね。お水は井戸水とかじゃなくて、精製水を使いたいんだけど、ある?不純物とかを取り除いたお水なんだけど…」

「蒸留水じゃダメかしら…?蒸留水なら問屋街に行けば手に入ると思うわ」

「たぶん蒸留水でも大丈夫だと思う。あと苛性ソーダはある?水酸化ナトリウムといって、強アルカリ性の薬品なんだけど」

「薬品なら薬品問屋に行けば何とかなると思うわ。あとはオイルだったかしら?どういうオイルが必要なの?」

「オリーブオイルって分かる?料理に使うオイルで、オリーブという植物の実を搾って採るオイルなんだけど、この世界にはあるのかな」

「そのオリーブという植物ではないけど、似たような植物のオイルを使っているわ。大丈夫よ」

「じゃあ私は一度、道具を取りに日本へ戻らないとね!何かワクワクしちゃうよ。明日同じくらいの時間にもう一度召喚してもらえる?全部準備しておくから」

「分かったわ、よろしくね。それじゃあエマを帰還魔法で戻すのよね…魔法はイメージだからエマが戻るイメージで…」


 すると魔導書が光り出し、エマの足元に魔法陣が現れる。エマは笑顔で手を振り、姿が消えていった。

 日本の斎藤家、エマの自室にて。エマは異世界から戻って来ていた。


「戻って来られたぁ~、よかったぁ~!…私、本当に異世界に行ってたのよね…あ、靴返し忘れちゃった…」


 足元に目を落とすと、そこにはカレンが貸してくれた靴が確かに存在していた。

 気を取り直すとエマは靴を脱ぎ、キッチンへと道具を探しに行った。

 日本はちょうど5月の大型連休に入ったところで、エマの両親も旅行に出掛けており、召喚される直前のエマは家でお留守番をしていたのであった。

 一方その頃、カレンは魔導書や召喚魔法のこと、石鹸作りのことを家族や奉公人にどう伝えようか悩んでいた。父は買い付けで居ないので、母とルークとレオの兄弟には事情を説明しておきたいが、普通に話しただけでは信じてもらえそうにない。


 ――どう言おうかしら…普通に話すだけではダメよね…もう一度目の前で石鹸でも召喚するのがいいのかなぁ…


「カレン、どこに行ってたの?遅かったわね」

「あ~、ちょっと色々あって……お母さん、ちょっと話があるから倉庫まで来てもらってもいい?ルークとレオも来てちょうだい」

「ええ、いいけど、どうしたの?」

「お嬢、倉庫で何か問題でもありましたか?」

「理由は倉庫で話すわ」


 倉庫にて。カレンは輸入品に紛れ込んでいた魔導書を見つけたこと、意図せずに魔導書の主となってしまい、召喚魔法を使えるようになってしまったこと、異世界から人と石鹸を召喚したことなどを説明した。そして怪訝な顔をして半信半疑な3人を前に、召喚魔法で再び石鹸を召喚してみせた。


「うぉー、凄ぇぇ!カレン、本当に召喚魔法使えるんだな!」

「目の前で見ても未だに信じられないわ」

「この白い物が、お嬢がさっき言っていた石鹸という物なんですか?」

「そうよ。石鹸を使って洗うと汚れが凄く落ちるのよ。実際に使ってみた方が早いわね」


 4人で井戸まで行き実際に使ってもらうことで、石鹸に対する理解が早まる。


「なるほど…これは凄い品ですね。それでお嬢は異世界の石鹸がこちらで売れそうだとお考えな訳ですね」

「そうなの!よく分かったわね!石鹸作りに必要な材料は、召喚した女の子、エマという名前なんだけど、エマに書き出してもらっているわ。取り敢えず必要なのは………」


 必要な材料を説明し、明日までに揃えなければいけない旨を話すと、ルークが蒸留水と苛性ソーダを探しに行ってくれることになった。カレンはオイルを買いに行くことに。その間、魔導書は母へ預けることとなった。

 カレンがオイルを買って帰ってくると、母フィオナは魔導書をパラパラとめくり読んでいた


「読んでみてもさっぱり内容が理解できないわ。ここに書かれているのはまるで呪文のようね。魔導書というとあの本を思い出すわね、ほらカレンが好きだった…お昼寝の時とかいつもあの本を持ってきて、読んで~ってせがんできてねぇ。懐かしいわね、ふふふ」

「私もあの物語思い出してたの。お母さんもなのね、ははは。私もあの子みたいに魔導書を使いこなせればいいのだけど」


 しばらくするとルークが戻って来た。


「ただいま戻りました。お嬢、ありましたよ、苛性ソーダと蒸留水。お嬢が仰っていた通り、薬品問屋で売っていました。両方とも薬品問屋で取り扱っていましたよ。何で水まで扱っているのかと思ったんですが、蒸留水というのは薬の調合で使うみたいですね」

「そうなのね。とにかく手に入れられてよかったわ。ご苦労様ルーク。明日はエマが石鹸作りを教えに来てくれるから、ルークも手伝ってくれるかしら?」

「分かりました、お任せください」


 石鹸作りに向けて準備万端。ワクワクしながら明日を迎えるのであった。



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