第24話 女神の加護

 神殿の中に入るとそこには広い空間があり、中心部には祭壇が設置されていた。


「あっ!ユート様」


 先に神殿に入っていたリリシアが俺達に気づき、駆け寄ってくる。


「ここには誰もいませんね。人の気配が感じられないです」

「迷いの森には霧がかかっているから、人が来ることはないと思う」

「ユート様は何故この場所を知ることが出来たのですか?」

「偶然見つけた古文書に書いてあったんだ」


 これは嘘ではない。滅びたフリーデン王国の城から見つけたんだ。三年後だけどね。


「そしてこれには秘密があって⋯⋯」


 祭壇に手を置くと突如周囲が輝き始める。


「この光はなんでしょうか! 眩しくて目を開けていられません!」

「ニャーッ!」


 二人は叫び声を上げると同時に、俺の首に抱きついてきた。


(ちょっと何をしたのですか! 目を開けたら王女と二人だけとかやめて下さいね!)


 もうそのネタはいいから。これだけ言われると、逆に二人だけにしてほしいと、催促されているのではと考えたくなる。


(わかりました。もう言いません。それだけは絶対に止めて下さい)


 どうやらルルは本気で嫌がっているようだ。このネタはやめた方がいいな。

 そして光が収まり、ゆっくりと目を開ける。


「いったい何が⋯⋯これは⋯⋯」


 リリシアは祭壇に視線を向けると、先程までなかった物に気づいたようだ。そこには三振りの剣といくつかの水差しが置いてあった。


「どういうことでしょうか? 祭壇の上には何もなかったはずです」

「古文書には祭壇に手を乗せると、古の時代で使用した神の祝福が得られると書いてあった。たぶんこの武器と水差しがそうなのだろう」


(概ね合っているけど嘘をついていますね?)

(ルルの考えているとおりだ。神の加護を持った者が祭壇に手を置くと、これらのアイテムが得られることになっている)


 だから実質これも霧の時と同じ、俺とルルだけが可能なことだと言える。

 祭壇に置いてある剣はそれぞれ形容が異なり、全長七十センチ程のショートソード、全長一メートル程のロングソード、そして二つと比べて剣身が細いエストックだった。


「この祭壇にある武器や水差しは、どこか神々しさを感じます」


 リリシアはうっとりとした様子で、武器を眺めている。

 その気持ちはわからないでもない。

 俺も初めて見た時は、心奪われたのを今でも覚えている。

 そして俺は祭壇にあるエストックを手に取る。そしてリリシアへ手渡した。


「これはリリシアが使うのがいいんじゃないか」

「この剣を⋯⋯私が⋯⋯」

「今持っている剣と形状が似ているし、問題なく扱えるんじゃないかな」

「わかりました⋯⋯ありがとうございます」


 リリシアが剣を持ち、天高く掲げる。そしてその場で刺突を放った。

 気のせいかもしれないけど、その刺突は先日俺と戦った時より鋭く感じた。


「不思議な剣です。まるで長年使っていたかのように手に馴染んでいます」

「それは良かった」

「そちらの二本の剣はどうされるのですか? 一本はユート様がお使いになるのですか?」

「俺はこのロングソードを使わせてもらうよ」

「でしたらもう一本はザインさんが? ですが⋯⋯」


 リリシアが懸念を示す。同じ剣でも形状が異なれば、扱いも異なる。格下の相手ならいいが同等、もしくは格上の者と戦う時、馴染んだ剣でないとそれが致命的になるのは言うまでもない。だが⋯⋯


「ザインは今ロングソードを使ってるけど器用な奴だから、ショートソードも上手く扱えると思う」


 何に適正があるかなんて本人にもわかっていないことが多い。ただ少し先の未来から来た俺は、当時仲間がどのような戦い方をしていたか知っているので、その方向へと導くだけだ。


「なるほど。それとこの水差しは何に使うのでしょうか? お茶を入れる容器にちょうどいいかもしれませんね」

「古文書によると、この水差しにはすごい能力が眠っていると書いてあった」

「す、すごい能力ですか?」

「ああ。それを説明するためには、神殿の裏手に来てもらってもいいかな」

「わかりました! 水差しに隠された能力が何か、すごく気になります!」


 リリシアは笑顔を浮かべ、とても楽しそうだ。王女様は退屈な日常を過ごしていそうだから、こういう刺激的なことに餓えているのかもしれない。


「ユート様、早く来て下さ~い」


 俺は前を行くリリシアに急かされて、神殿の裏手に回る。

 するとそこには、清んだ水が湧いている小さな泉があるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る