第5話 初の実戦

 鋭い一撃がザインの首を襲う。


「ちっ!」


 ザインは舌打ちしながら腰に差した剣を抜き、見事鎌を受け止める。

 だが鎌の攻撃が予想以上の威力だったのか、後方へと吹き飛ばされて地面を転がる。


「どどど、どういうことだよ!


 そう。目の前にいた魔物は後ろ姿だけ見ると、長い綺麗な髪をした女性に見える。

 だが顔を見ると肉は腐って削ぎ落とされ、骨しかないのだ。

 この魔物は腰に差した笛を使って死霊を操るアンデット⋯⋯ネクロマンサーだ。だがただのネクロマンサーじゃない。全てのネクロマンサーの頂点に立つネクロマンサーエンプレスと呼ばれる存在だ。


「俺は別に女の子が待っていると言っただけで、誰が待っているとは口にしていないぞ」

「男心を弄ぶなんて酷くね?」

「それは悪かったな」


 申し訳ないけどザインはこれからの戦いに必要な人材だ。これから経験値を積んで強くなってもらわなくちゃ困る。

 それにしてもさすがだな。

 さっきのネクロマンサーエンプレスの攻撃だが、俺は離れた位置からだったから何とか見えた。しかしザインは至近距離から防いでみせたのだ。

 やはり見切りに関しては俺より上だな。

 悔しいけどネクロマンサーエンプレスと初めて会った時、俺は何もすることが出来ず、瀕死の状態にされて逃げ出したのだ。


「どうすんだよこれ! 俺達が敵う相手じゃねえぞ!」


 どうやら初撃を防いだザインでも、ネクロマンサーエンプレスを倒すことは出来ないようだ。

 だけどネクロマンサーエンプレスの厄介な所は、その強さではない。

 この後ネクロマンサーエンプレスは南に向かい、母さんや村の人達を虐殺する。そして生き残ったのは俺とザインと数名だけだった。

 そんな残酷な未来を再び歩ませる訳にはいかない。

 そのために俺はこの時間軸に戻ってきた。


「ここは俺に任せてくれ」

「任せろってお前⋯⋯」


 危険なのでルルに肩から降りるように命じた後、俺は前に出てネクロマンサーエンプレスと対峙する。

 相変わらず凄まじい威圧感を感じるな。

 ちなみにこいつを倒したのは今から四年後で、その時は特別な武器を持っていた。

 だが今はその武器もなければ、身体能力もかなり劣っている。

 しかし俺にはセレスティア様に頂いた新たな力がある。恐れることはない。


「おい! 武器も持たずにどうするんだ!? まさか魔法で倒すつもりなのか?」


 ザインから心配する声が上がるが、今は魔力を集めることに集中する。

 この時の俺はいくつかの魔法を使うことが出来ていたが、どれもネクロマンサーエンプレスを倒すには至らないことを、ザインはわかっているんだ。

 ネクロマンサーエンプレスが俺を敵とみなしたのか、こちらに接近してくる。

 そのスピードは速く、あっという間に目前まで迫ってきた。

 大丈夫。女神様から頂いた力の使い方は俺の脳裏に刻まれている。

 俺は自分を落ち着かせて左手を前方にかざす。そしてネクロマンサーエンプレスに向かって魔法を解き放った。


回復魔法ヒール


 眩しい白い光がネクロマンサーエンプレスを包みこむ。

 俺が使った魔法は本来傷を治したり、体力を回復する魔法だ。

 回復魔法を敵にかけて正気かと思われるかもしれないが、アンデットのネクロマンサーエンプレスにとっては、最も苦痛を与える魔法となっている。

 回復魔法は生命の力を与える魔法であり、アンデットは死の力を原動とする生物である。そのため相反する力を食らったネクロマンサーエンプレスは、根源を犯されダメージを受けていた。

 鎌を持っていない左手で頭を抑え、激しく暴れ始める。

 さすがはネクロマンサーの頂点に立つ存在だな。俺の回復魔法ヒールを一回食らったくらいでは倒すことは出来ないらしい。

 だが最初から一撃で倒すことが出来るなんて考えてはいない。

 初撃はネクロマンサーエンプレスからある物を手に入れるために、攻撃したのだ。


 俺は右手に掴んだ物をザインに向かって投げる。


「何だこれは?」

「それを持っててくれ!」

「これを持ってればいいのか!?」


 ザインは疑問に持ちつつも俺が投げた物をキャッチする。


「ギィギッ!」


 その様子を見てか、ネクロマンサーエンプレスは声にならない言葉を吐きながらザインへと迫る。

 顔は骸骨などハッキリとしたことはわからないが、激しい怒りを感じた。

 だがそれも無理はない。

 あれは死霊の笛と呼ばれており、死した者を骸骨や悪霊として操ることが出来るのだ。

 前の時間軸でもネクロマンサーエンプレスだけなら、村人達は逃げ切ることが出来た。しかし死霊の笛によって操られた亡者によって、村は囲まれてしまい、結果たくさんの人が殺されることになってしまったのだ。

 ここは墓場で死した魂が多くあるため、ネクロマンサーエンプレスに取っては最高の環境であっただろう。

 そのためまずは死霊の笛を奪うことを優先したのだ。


 ネクロマンサーエンプレスは死霊の笛を奪い返すためか、我を忘れてザインへと迫る。

 だがその背中は明らかに隙だらけだ。


回復魔法ヒール


 俺はネクロマンサーエンプレスに向かって回復魔法を唱える。

 するとネクロマンサーエンプレスは回復のダメージで地面に倒れ、ひれ伏す。


回復魔法ヒール


 そして俺は再び回復魔法を唱えると、ネクロマンサーエンプレスの身体は徐々に灰のように塵となり、跡形もなく消滅するのであった。


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