第8話 路地裏にて④


「私は嫌いではないぞ。あの若葉ミーム」

「マジであれだけはやめてください!」


 あの動画を見た李梅がどう思うか──想像に難くない。


「さて、本題に入るが、君は放っておけば奴らに殺されるだろう」

「いや、いくら動画がつまらないからって、殺されるなんてことは」

「動画のことは関係ないさ。若葉ちゃんは、神龍テクノロジーズのスパイ、李梅のことを、知ってしまったからね」

「知ってしまったって……向こうがバラしたんですよ」

「同じことだよ。どのみち、君を殺すことが目的だったみたいだし」

「そんなあ」


 王野の言葉に、若葉は冗談でしょうとばかりに肩をすくめる。


「奴ら神龍テクノロジーズは、ヘビより執念深い。李梅の顔を知った君を、真っ先に始末に向かうだろう」

「そ、そんな──」

「怖がらなくていい。そのために、私たちがいるのだから」


 王野はちらりと背後を見る──そこには、六人もの漆黒のコート姿の女たちが取り囲んでいた。

 その中の一人、長い金髪の女性が王野の側まで歩いてくる。


「久院。若葉ちゃんのこと、頼んだよ」


 久院と呼ばれた女は「はい」と短く返事して若葉の方を見下ろした。


「野窓若葉さん。改めて、私たちは企業救出課ですわ。これから私たち六人で、あなたを神龍テクノロジーズから護衛させていただきます。久院(くいん)と申します」

「は、はあ」


 まるでお嬢様のような口調で話す久院を、呆けた顔で見上げる若葉。「とはいっても──」と続け、


「久院は、コードネームですけどね」

「こ、こーどねーむ!」


 コードネームという単語がよほど魅力的に感じられたのか、若葉も「では私も──」と名乗りをあげる。


「コードネーム、窓際です!」

「本名を言ってからコードネームを言って、どうしますのよ」

「あっ……」


 赤面する若葉に、くすりと笑う久院。


「とにかくあなたには、明日から護衛をつけますわ」

「ご、ごえーですか?」

「ええ、護衛です。二十四時間みっちり、ここの六人交代で見張りをつけますわよ」


 六人の彼女たちをそれぞれ見て「にじゅーよじかん!?」と声を上げる。


「若葉ちゃん、頼りないかもしれなきけど心配はいらないよ。彼女らの仕事は本物だ。なぁに、君のプライバシーが丸一日、筒抜けになるだけのことさ」


「それだけでも、だいぶ人権侵害ですけどね」

「命には換えられないだろう」

「ま、まあ……そうですけど……」


 若葉は「それで──」と心配そうな顔つきで、


「──わ、私はこれから、どうすればいいんでしょうか?」

「普通に帰りたまえ、それで、明日もいつも通り出社するんだ」

「え、大丈夫なんですか?」

「ああ。むしろ普段通り出社してくれた方が、こちらとしても動きやすい」

「私たちが、あなたを命に換えてもお守りいたしますわ。それが私たち救出課のお仕事ですもの」




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