第4話 自分の正体

 しばらくアルと共に自分の正体について調べていると、アルが古い文献からある一つの種族を見つけた。


「エルフ?」

「うん、奏ちゃんって目が緑色だし、人間に近い外見をしてるでしょ」


エルフといえばファンタジー世界なら定番の種族だ。

自然とともに生きる彼らは他種族に排他的で、滅多に人前には出てこない。

その容姿は男女ともに美しく、地域によっては信仰の対象にもなっていると文献には書かれていた。


「それに・・・」


アルは俺の髪をかき上げ、耳の形を確認した。


「やっぱり・・・隠れてたから気づかなかったけど、耳がちょっと長いね」


エルフの特徴といえばなんと言っても横に長い耳だ。

幸いこの町の人たちはエルフという存在自体を知らない人も多いため、俺はせいぜい耳がちょっと長い人間という扱いを受けている。


「ということはエルフなのかな?」

「ん~でもこれに書かれているエルフはみんな髪が金髪なんだよ」

「あぁそっか、髪白いよね」


エルフ種族はみな金髪らしく、排他的な文化のせいか髪の色が変わることはないそうだ。大昔に人間との混血のエルフもいたそうだが、その人も金髪だったらしい。

仮にエルフ種族でもこの髪が白くなっている原因は一応他にも考えられる。


「となると先天性のアルビノか・・・」

「アルビノって何?」

「人間にもまれに生まれるんだけど、生まれつき髪の色と目の色が白い人がいるんだよ」

「あぁ!それ知ってる!確か隣国のお姫様が生まれつき髪が白くて、生まれた当時は聖女の再来だって騒がれてたよね」

「そのお姫様もアルビノなんじゃないかな」


アルビノは世界一美しい病気と呼ばれるほど、体のあらゆる場所が白くなってしまう病気だ。

皮膚の色素が薄いため紫外線に弱く、日中は常に日傘を差さないと外を歩けない。

他にも色素が薄いため目の中に光をうまく集められず、目も悪くなってしまう。

美しさと引き換えに、かなり不自由な生活をするはめになると以前ネットで調べたときに知った。

だがこの体は日が差す森の中でも問題なく移動でき、これと言って目が悪いわけでもない。

そのためアルビノの可能性は低いといえる。


 あれからしばらく文献をあさっていたが、自分の種族についてこれ以上調べることはできなかった。


「アル、今日はありがとう」

「奏ちゃんには助けてもらったからね、このくらいどうってことないよ」

「そうだ、昨日イリスちゃんと話し合ってたんだけど、お礼もかねて今晩一緒に外食しない?」

「いいの?昨日の宿の手配もしてもらったのに悪いよ」

「これもお礼だから気にしないでいいよ、それくらい感謝してるってことだから」

「それじゃ今晩、奏ちゃんが泊まってる宿屋に行くから待ってて」


その後宿屋でアル達と合流し、冒険者御用達の店に向かった。


「ここで食べられる鳥の胸肉が最高なんだよね~」

「アル、食べ過ぎないでね?この前アルのせいで宿に泊まれなくて野宿する羽目になったの忘れてないから」

「イリスその時はごめんって、お詫びにイリスの欲しかった魔力出力向上の魔法付与がされている指輪買ったじゃん!」

「はぁ・・・まあいいわ、奏も今日は奮発するつもりだから遠慮しないでね」

「分かったよ」


それからアル達と食事を楽しんだ後、お店を出るタイミングでイリスが話しかけてきた。


「そういえば奏はアルと一緒に何を調べてたの?」

「昨日亜人狩りを見てて思ったんだけど、自分が一体どの種族なのかを調べたいなと思って」

「なるほどね、それで何か分かった?」

「それがね、奏ちゃんの種族について書かれている本がなかったの・・・」

「一応エルフのアルビノ?ていう近しい情報は分かったんだけど」

「あぁアルビノね、確かにその髪の色はそうかも」

「え!?イリスはアルビノのこと知ってるの?」


驚いた、どうやらイリスはアルビノについて理解があるようだった。


「あんたね・・・私の出身が何処か知ってるでしょ?」

「あ、そうだった・・・そういえばイリスって白髪のお姫様がいるミルス公国出身だったね」


その後アル達と別れて、宿泊している宿に戻った。


「結局どの亜人か分からずじまいか」


自分の種族が分かれば、この世界に転生した理由もわかるかもしれない。

そう思いながら、その日は眠りについた。




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