ここでわたしが

「こういうこと、なのかな」

「わかったのかすずめ?」

「すごいなすずめ!」

 わたしがつぶやいたら、鷹くんと隼くんがささっと寄ってきた。

「待って。これは、あくまで可能性の1つ」

 そうなのだ。一応、意味の通りそうな文章にできた、というだけ。

 矛盾が無い、というだけ。

 この考えが合っている、という確信があるわけでもない。

 もしこれが、見当違いだったとしたら。

 変なことを言って、また蒼衣ちゃんに迷惑を……

「可能性だとしても、言ってみてください」

「虎子ちゃん?」

 わたしが声に反応した先には、厳しい顔をした虎子ちゃんが立っていた。

「今は一刻を争う事態です。もしすずめさんの考えが合っていたらそれに越したことはないし、そうじゃなくてもそれが手がかりになることだってある」

「…………」

「すずめさん。昨日の自信はどこへ行ったのですか」

 虎子ちゃんは、わたしの肩をぽんと叩いた。

 わたしより虎子ちゃんの方が、背は低いはずなのに。

 なんだか、虎子ちゃんの視線が上から見下ろすように思えて、わたしの方がたじろいでしまう。

「すずめさんには間違いなく能力があります。昨日も言いましたが、失うにはもったいなさすぎる。それに」

 虎子ちゃんの鋭い視線。でも、昨日のように冷たくはない、ような。

「すずめさんが今、このタイミングで解けたからこそ、蒼衣を助けられるかもしれないのです。遅れたら間に合わないかもしれない」

 わたしがここで解けたから、蒼衣ちゃんを助けられる……?

「なあ、すずめは、自分で思ってるよりも、ずっとすごいぞ」

「そうそう。すずめのおかげで、俺らは蒼衣を救えるかもしれないんだ」

 そう言ってずいっとわたしに近づいてくる鷹くんの目は、輝いている。隼くんも、うんうんと首を縦に振る。

 虎子ちゃんもわたしに顔を近づけ、語るように話しかける。

「そうね。すずめさんはまず、自分に自信を持ちなさい。蒼衣みたいに偉そうにしろとは言わないけれども、多分あなたは、昨日のテンションぐらいでちょうどいいわ。わたしも、昨日のあなたは見ていて気持ちよかった」

「虎子、それは蒼衣の負かされるところが快感だっただけなんじゃないのか」

「それもあるわね。けど、わたしはすずめさんを気に入りました。あなたは間違いなく、わたしの、蒼衣の、良い敵になる」

 良い、敵?

「なるほど。ライバルってやつか」

 その鷹くんの言葉に、虎子ちゃんの顔がびくっとなる。

「そんなものじゃないわ。あくまで敵よ。でも、敵が弱すぎるゲームって、つまらないじゃない?」

 そう言って、また意味ありげに虎子ちゃんはわたしを見つめる。

 今度はあの冷たい視線じゃない、どこか楽しいような。

「さあ、だからすずめさん、わからないわたしたちは、あなたの推理を聞きたいのです。蒼衣は、いったいわたしたちに何を伝えようとしたのか」

 蒼衣ちゃんが言いたいこと。

 それを今わたしが話すことで、蒼衣ちゃんを助けることにつながる……


「……わかった」

 蒼衣ちゃんを助けるためだ。

 今どうなっているかわからない蒼衣ちゃんを、なんとかする。

 そのためには、ここでわたしが勇気を持たないといけない。

「これが合ってるかはわからないけど、説明する」

 いつの間にかわたしたちの周りには、青海さんや龍沢家の使用人、警官の人たちが集まってきていた。

 青海さんはまだ相当取り乱しているようだ。呼吸が荒く、何か求めるような目をわたしに向けてくる。

「本当は青海さんも、パズルや謎解きには強いんだ」

「そうなの?」

「少なくとも、蒼衣からのメッセージが暗号だと思って考えるぐらいのことはしそうなものだけど」

 鷹くんが小声でわたしに話しかけてくる。

 言われてみれば確かに、龍沢家の現当主が、そういう能力を全く持っていないとは、ちょっと考えづらい。

 逆に言えば、そう考える余裕もないほど、青海さんは取り乱しているのだ。

 それだけ蒼衣ちゃんのことを心配しているということである。

 たとえその理由が、蒼衣ちゃんそのものの心配というより、龍沢家次期当主を心配するものであったとしても。

 心配されて蒼衣ちゃんが悲しくなることは、きっとないはず。

「もしかして、蒼衣がどこにいるか、わかるの?」

 その青海さんが、今にもわたしにつかみかからんとする勢いで聞いてくる。

「多分、ですが」

 わたしは少し息を整える。冷静に、落ち着いて。

 わたしはこれから、蒼衣ちゃんを救出するための行動をするんだ。

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