ゲームが上手すぎる


「これは、ひらがなを数字に直して足し算すればいいのね。1番目の『あ』と5番目の『お』を足すと、6番目の『か』になる。6番目の『か』と、『り』はえっと……」

 蒼衣ちゃんは指を必死に折っている。

「40番目ね。だから足し合わせると46番目の『ん』」


 蒼衣ちゃんの言うとおりだ。

 五十音順で『あ』を1、『い』を2……としてひらがなを数字に変換すると、一字ごとに足し算が成立するようになっている。

 『さ』+『う』=『せ』で、濁点はそのまま。『き』+『る』=『ん』なので、つなげて読むと『かんぜん』という言葉ができる。

 一文字目の?を求めるには、『た』と『て』を数字に直して引き算すれば良い。3になって、『う』が入ることがわかる。同じように他の?を求めると……


「『うわそふ』、ね」

「正解」

「……ところで、『おりうる』とか『うわそふ』ってなんなの?」


 蒼衣ちゃんが追及してくる。しまった、ここを聞かれると弱いのだ。


「そうね……特に意味はないわ。その方が、蒼衣ちゃんも答える時に迷うんじゃないかと思って」


 適当に言ってごまかすが、本当はここも意味のある言葉にできないかとやってみたのである。

 その方がきれいだからと鷹くん隼くんと一緒に頑張ってみたけど、上手く言葉を当てはめられなかった。


 

「ふうん……まあいいか。これで1対1ね、じゃあ次はあたしからよ」


 蒼衣ちゃんは右手でびしっとわたしを指差す。


「あたしからはまたウミガメのスープ。ルールはさっきと同じで、すずめが10回の質問中に正解できたらすずめの勝ち、できなかったらあたしの勝ち。OK?」

「もちろん」


 蒼衣ちゃんの少し挑戦的な態度。

 それを見ていると、こちらも気持ちが乗ってくるというものだ。



「それじゃあいくわ。『ある男の子はゲームが上手すぎて、一緒に遊んでた子たちに見捨てられてしまった』……さて、どうして?」




 ゲームが上手すぎると見捨てられる……それは例えば、どんな状況だろう……?

 わたしはまた、思いついたものを一旦言ってみる。


「ゲームが上手すぎていつも勝っちゃうから、他の子がつまらなくなったとか?」

「違う」


 うーん……他に理由があるだろうか?


 わたしは考えて、そしてさっきの1問目を思い出す。

 あのときは、お寿司が食品サンプル、ミニチュアであるというトリックがあった。

 きっと今回も何か隠された情報があるはず。



 ……としたら……


「そのゲームは、スマホやゲーム機のゲームですか?」

「いいえ」


 蒼衣ちゃんの表情が、ちょっと変わった。

 もしかしたらいい質問をしたのかもしれない。


「……そのゲームは、スポーツですか?」

「うーん……いいえ」


 スポーツではない、けどスマホやゲーム機のたぐいではない。

 とすると、遊びの部類に入るやつだ。じゃんけんとか、鬼ごっことか……


「そのゲームは、主に外で遊ぶものですか?」

「……まあ、はい、かな」


 蒼衣ちゃんが迷っていたということは、はっきりとは言えないものなのか。でも一応外で遊ぶものとしておこう。


 外で遊ぶもので、上手すぎると見捨てられるようなもの……?



 ……待てよ、そもそも見捨てられるってのはどういうことだろう?

 よく考えたら見捨てるというのも大ざっぱな言い方だ。


「見捨てるというのは、その男の子とはそのゲームをもう遊ばない、という意味ですか?」

「いいえ」


 ……やっぱり。

 多分、見捨てるというのは男の子が嫌になったみたいな意味合いではない。

 その男の子はゲームが上手すぎることで、何か問題を起こしてしまったのだ。それも問題というのはきっと、感情に関わることではない……



「……鷹、今度もわかったのか?」

「え?」

「いや、なんかそういう顔してたから」

「ああ、隼はどうなんだ?」

「さっぱりだよ」


 鷹くんと隼くんはそんな会話をしてる。


「今回はわたしもまだピンと来てないわね……やっぱりこの手の問題ももう少し練習すべきかしら」

「あら虎子わかってないの?」


 虎子ちゃんがぼそっとつぶやくと、すかさず蒼衣ちゃんが声を上げる。


「蒼衣、今あなたが出題しているのはすずめでしょう。それにすずめがもっといい質問をすれば、わたしだって多分すぐ答えられるわ」


 そうだ。この勝負のポイントは、限られた回数の中でいかに有効な質問をするか。

 適当な質問をしてたら10回というのはすぐに来てしまう。


 どこから攻めていくか……やっぱり今回は、どんなゲームをしていたのか、というところかな……?

 何か特殊なやつとかだったら、それがそのまま答えに直結する。


「そのゲームは、幼い子どもでも遊べるようなものですか?」

「はい」


 蒼衣ちゃんは即答だった。

 ということはきっと複雑なゲーム、遊びではない。

 それで主に外で行うもの……


 鬼ごっこ? かくれんぼ?


 ……で、見捨てるようなことが発生する遊び……



 ――あっ。

 見捨てるって、そういう意味なんじゃ……?



「そのゲームは、かくれんぼですか?」

「……はい」


 これだ。蒼衣ちゃんの隠しきれない悔しそうな反応が、わたしの考えが間違ってないことを示している。


「わかったわ。その男の子はかくれんぼがあまりに上手すぎて、他の子が探すのを諦めた……つまり見捨てられてしまったのね」


「正解」

 蒼衣ちゃんが少しため息をつく。


 探すのを諦めた、というのを見捨てるって表現するのは……でも、そうやって答える側の勘違いや思い込みを誘うのがこの問題のポイントなんだ。



「なるほど……蒼衣わかった? すずめさんの実力は間違いない。少なくとも蒼衣が簡単にえらそうな態度を取れないぐらいには」

「……何よ、まだ勝負はついてないじゃないの。すずめ、次の問題は?」


 虎子ちゃんの言葉に、蒼衣ちゃんは口をとがらせてわたしに迫る。

 確かに、まだ勝負は途中だ。わたしにはあと2問、出さなければいけない問題が残っている。


「では、わたしからの2問目」

 わたしは一つ息を吐いて、再びスマホの画面を蒼衣ちゃんに見せる。


『いくぜさつでる』


「この暗号を解読してください」

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