Wonder Starlit

三好ことね

プロローグ スターと。

 視界に映ったのは、夜空。

 疲れた私には、いつもより星が輝いて見えた。


 ふと、思い出す。輝いている人間が『スター』と呼ばれていたことを。

 スター、つまりは星。


 思いついた、思いついてしまった。


 あとは、成し遂げるだけだ。


 ――新生活、というものは慌ただしいものである。

 それは、僕も例外ではなく、今日から『星座の観測者』としての仕事が始まる。

 指定された場所は、街から遠く離れた山奥の研究所。

 天体観測には最も適している場所であり、きっとその星空は何物にも変えがたいものだ。

 と、この職に対する期待に胸が膨らむ。

 どんな世界が見れるのだろうか。どんな景色を見届けることができるのだろうか。

 そんな思考とともに、目的地の前で深く深呼吸をした。

 様々な感情を込め、扉を叩く。

 その音を待っていたかのように、扉は開かれた。


「やあ、待っていたよ。観測者クン」

 扉から出てきたのは、明らかに寝不足の白衣の女性。

「自己紹介は後だ。まずはこちらに来ると良い」

「は、はい。失礼します」

 着いて行った先には大量の謎の機械が置かれていた。

 当然、観測に使うものではないことは、素人同然の僕でも分かった。

「君は運が良い。これからスターが生まれる瞬間を見届けてもらう。私と一緒にね」

 その言葉の後、この場の主は悪戯な笑みを浮かべ、こう告げる。

「見ての通り、私は寝不足なんだ。、責任は取れないよ」

「それって、どういう――」

 僕の言葉を待たずに機械は起動し、光を発した。

 やがて、視界は白に包まれる。

 その光はまるで、星の瞬きのように感じた。


 光が収まった頃、ゆっくりと瞼を開く。

 そこは元の薄暗い研究所ではあるのだが、一つの事実に目を疑った。

 十数の人間が、この場に現れていたのだ。

「あ、あの! これは一体……」

「ちょっと黙ってて」

 この場の主こと、寝不足の白衣の女性は片手で乱暴に僕の口を塞ぐ。

「いち、にー……あれ、一人多いな。まあいいか」

 人数を数え終わり満足したのか、漸く手を離すと、こちらに向き直る。

「ということで、観測者クン。自己紹介の時間だ。私はセイ。気軽にセイ博士と呼ぶと良い」

 気軽、なのだろうか。それは、

 自己紹介の時間、と言われても、今の僕には疑問で頭が埋め尽くされている。

 そんな僕にセイ博士は催促するような視線を送る。

「……天灯里あまあかりコウです。今日からここで星座の観測をさせていただくことになりました」

「素晴らしい名だ、天灯里クン。まず、この研究所にいるのは私一人だ。責任者は私だから、逃げ出そうとしても無駄だぞ、観測者クン。」

 思考が読まれているのか、セイ博士は笑みを浮かべたまま釘を刺す。

「何を隠そう、この研究は私が一人で進め、成し遂げたものだからね! 他に人間を入れる気は無かったんだが……まあ、諸事情により話が変わってね。君を雇ったんだよ」

「はあ……。で、この方々は一体……?」

「そう、これこそ私の研究の成果さ。彼らは星座から生まれた、ホシビトだ。疑似人間、とも言えるだろう」

「そんな人類の禁忌みたいなことを……」

「うん、だから諸事情と言っただろう? 彼らは人間じゃない。だから、それがバレてはならないのさ。人間らしい生活を誰かが教えないといけないんだが……生憎、私は研究者だ。生活リズムなんて有って無いようなものだからね」

 平然と表情一つ崩さず、とんでもないことしか口にしていないセイ博士を見ていると、諸々……そう、穏やかで慌ただしい新生活というものを諦めるべきは、自分なのだと悟らされる。


「とは言っても、非人道的行為はしていないから安心してほしい。まず、この機械が星座の波動を察知し、私が直々に捕まえるスカウトする。勿論、拒否権はある。彼らが同意した場合のみ、こうして人間の姿を手に入れるのさ」

「で、僕は具体的にはどうすれば?」

 全てを諦め、現状を受け入れる僕と反し、楽しく嬉しそうにセイ博士は業務内容を伝えた。

「彼らはこれからアイドルとして生きていく。諸々の手配等はこちらが済ませる。君がすることは、二つ。アイドルの彼らをサポートすること。次にこちらが最重要なのだが、彼らが人間として生きるために共同生活をしてほしい。そして、人間というものを彼らには学んでもらう」

 伝え終わったセイ博士の表情は打って変わって真剣なもので――

「拒否権はないが念のため聞かせてもらう。引き受けてくれるかな?」


 こうして、僕の憧れの生活に終わりを告げ、可笑しな共同生活が始まっていくのだった。


 セイ博士は満足そうに頷くと、一枚の地図を手渡す。

「君は今から彼らとこの地図に記された場所に向かってほしい。私は諸々済ませたらそちらに向かうよ。車は手配してあるから、運転は君に任せよう。なんて言ったって――」


「――彼らはまだ生まれたばかり。名前も無いのだからね」

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