世界を救った横恋慕勇者と故郷の幼馴染寝取られた聖女

六畳仙人

第1話 世界を救った横恋慕勇者くんと、幼馴染を寝取られた聖女


 僕たちは、世界を救う旅を終えた。

 

 勇者の僕。

 聖女のアリア。

 戦士のリオン。

 魔術師ディアナ。


 四人合わせて勇者パーティーと称された僕たちは、魔王の討伐という人間の運命を左右する戦いに身を投じた。


 そして、過酷な旅の果てに、人間を滅ぼして世界を支配しようと企んだ魔王やその部下達と死闘を繰り広げ、死にかけながらも魔王にトドメを刺した。


 こうして世界を救った僕たちは英雄になった。


 魔王を倒した戦果を手土産に国に帰ると、国中の人々が歓喜の声を上げ、国王様からは格別の賞賛を受けた。


 そして、国王様は高らかに宣言した。


「さあ勇者ディオス、聖女アリア、戦士リオン、魔術師ディアナ……皆、己が望むものを申してみよ! 魔王を討ち倒した其方らの偉業を称え、余に与えられるものであれば何でも与えよう!」


 国王様からはどんな褒美でもとらすと言われた。


 富も、栄誉も、名声も、国王様に与えられないものなど殆どない。


 実質、願いを叶えてもえるということだ。


「ま、マジっすか! じゃ、じゃあ、俺は国中から集めた美人……」


「リオン?」


「ヒェ……いや、何でもないですはい! では国王陛下! 俺は一生遊んで暮らせる程の大金を望みます! 

そのお金をディアナとの結婚生活の資金にします!」


「ほほう……よかろう!戦士リオン、其方には金貨の山を与えよう!」


「まったくもう……では陛下、私は綺麗な海が見える邸宅を望みます。リオンと二人で過ごす新居として利用したいです」


「うむ! 魔術師ディアナ、其方らのために海辺に豪華絢爛な館を築かせよう!」


 仲間の長身で筋骨隆々な戦士のリオンは大金を、美人で発育の良い魔術師のディアナはリオンと二人で住まう豪邸を望んだ。


 戦士のリオンと魔術師のディアナの二人は旅の途中で恋仲になった。

 

 可愛い女の人を見るとすぐに鼻の下を伸ばす脳筋なリオンと、学者肌で貞淑な価値観のディアナは最初とても相性が悪かった。


 でも、魔王の部下の攻撃からリオンが身を挺してディアナを庇い、リオンを信頼するようになったディアナが付きっきりでサポートをするようになってから、二人の関係は一変した。


 そして、絆が芽生えた二人は過酷な旅の中で次第に仲を深めていき、心を通わせるようになった。


 夜になると、いつのまにか何処かにいなくなっていたから、二人の関係を察するのは簡単だった。


 今では、二人は心の底から繋がっている将来を約束するほどの親密な関係だ。


 まあ、相変わらず、リオンはディアナ以外の可愛い女の人を見ると頬を染めて鼻の下を伸ばすし、そんなリオンの姿を見て、毎度ディアナも静かにキレて拳を握りしめ、背後に魔法陣を展開してリオンを成敗しようとする。


 でも、その光景はまるで仲睦まじい夫婦漫才のように見える。


 だってわかりきっているから。

 リオンが一番好きで愛しているのはディアナだし、愛が思いディアナがリオンを手放すことはないって。


 そんな想いあっている二人の関係が僕にはとても羨ましい。


「では、勇者ディオスよ……望みを聞こう」


 国王様が威厳のある声で僕に願いを訊ねる。


 僕は国王様に深く頭を下げて望みを述べた。


「では、一刻も早い国の復興を望みます。魔王のせいで傷ついた人々が少しでも早く元の生活に戻ることが僕の望みです」


「なんと……流石は勇者、慈愛に満ちた高潔な男よ!」


 国王様は感嘆の息を漏らし、


「だが、本当に良いのか? 其方程の男が望むなら他にも……」


 とさらに提案した。

 でも、僕はその国王様の提案に首を振った。


 本当は、内心僕にも望みがある。

 でも、その望みは国王様では叶えられないものだ。

 だから、せめて他の人たちの暮らしが良くなることを願った。


「そうか……では、其方の願いを果たすため、より一層復興に力を入れよう! だが、無欲な勇者よ。また、何か望みができたら余に申すのだぞ。幼き頃から尽くしてくれた其方に、余は何か報いたいのだ」


「身に余る御言葉、恐悦至極にございます」


「うむ、では、最後に聖女アリアよ。其方の望みを聞こう」


「はい陛下」


 最後に、国王様は聖女のアリアに願いを聞いた。


 僕は、アリアの方に視線を移す。


 アリアは美しい菫色の髪を持つ綺麗な人だ。

 初めて会った時は、地上に降りて来た女神様だと思ってしまったほど。

 その美しい容姿と、完璧な黄金比の肢体には、誰もが目を奪われ、誰もが虜になってしまう。


 僕も彼女の虜になった一人だ。


 ……本当に、彼女はこの世界の誰よりも美しいと思う。


 すると、アリアは穏やかに、


「では、私は国宝の一つ、『女神様の指輪』が欲しいです」


 と望みを告げた。


「ほう……! 『女神様の指輪』か! 確かにあれは国の秘宝の一つ。だが……いや、特別に許可しよう!……どなたか想い人でもいるのか?」


「はい。故郷の村で約束した人がいます」


「そうかそうか!」


 アリアが国王様に望んだのは王国に保管されている国宝だった。


 『女神の指輪』という名前のその国宝は、かつて、地上に降りた女神様が人間の男に贈ったという伝説がある特別な指輪だ。


 その指輪を贈り、結ばれた二人は生涯決して分たれることなく、死後何度生まれ変わっても再び結ばれる永遠の愛が約束されると言われている。


 アリアはその指輪を故郷で待たせている幼馴染に贈るのだと幸せそうな声で国王様に語った。


 アリアはその幼馴染との永遠の愛を望んでいたのだ。


 そのアリアの言葉を聞いて、僕はズキリと心が重たい痛みに包まれた。


 やっぱり、僕の願いが叶うことがないのだと悟ったからだ。


 僕には好きな人がいる。

 初めて会ったその時から、僕はずっと彼女に恋をしている。


 けれど、彼女には既に故郷に最愛の恋人がいた。


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