untitled

@rabbit090

第1話

 心が折れてしまった、ぽっきりと。

 そもそも、

 「出て行ってくれ。」

 「…無理。」

 となんども粘ったのがいけなかったのかもしれない、俺は、あいつのことが好きだから、一緒にいるのだと、どれだけ方便を使ったのか、覚えていない。

 というか、人なんてそんなものだと思っていた。適当に誰かを利用して、利用されて、win-winだろ?なんて思ってたけど、思っていたけど、はあ。

 「ごめんごめん言い直す。今すぐには行けない、ちょっと待ってくれ。」

 「…うるせ。」

 と、もう駄目だった。あいつの気持ちは終わっていた。俺に対するものなど憎しみ以外の何者でもないのだろう。

 一応、あいつがまとめておいてくれたらしい、俺の私物を詰めたバッグと一緒に、玄関から投げ出された。

 寝起きから、これか。絶望したけど、大丈夫なようだった。

 笑ってしまう程、俺って楽天的なヤツだって、今理解できた。

 とぼとぼと道を歩きながら、考えていた。

 あいつが、急に俺を追い出したのには、理由がある、それはもちろん、知っている。だってさ、女は、別の男を作るんだ、要らない男はその後に捨てる、悪気はなく、そう、小学生の時のような正義で、自分は悪くないと思っているのかもしれないけれど、それは駄目だろ。

 俺も駄目だけど、あいつも駄目だぜ。

 「しかも、同じ会社のヤツだし…。」

 ホント、何なんだよ。全然かわいそうじゃねぇよ、俺の方がかわいそうだよ。じゃなくて、好きとは何だろう、俺にとっては好き、だったはず。

 けど、ああやって麻薬に溺れている恋とは、どこか違っていた。

 あいつがいつも、ドロッとしたような顔で、ああ、こいつは俺を直視してないんだなぁ、というのは分かっていたし、その麻薬が切れるのが怖くて、気のない俺ではなく、新しく恋をもたらしてくれる男と、一緒にいることにしたのだ。

 

 くだらねぇ、くだらねぇけど、俺は忘れられない。

 家なんて、ホントはある。友達だけは多いんだ、しかも、姉貴がそろそろ結婚するって言うから、多分実家に戻れるはず。姉貴はヒステリックな女で、俺は逃げだすように実家を出てきたのだ。

 はあ、

 「あいつ、分かってねぇよ。」

 そうだ、分かっていない。

 俺は、

 「俺は。」

 麻薬が欲しかったわけじゃないんだ、俺は、家族が欲しかったんだ。

 だから、俺は。

 「お前のことが、好きだったんだ。」

 そうだよ、そうなのに。

 間違ってるのはいつも俺だった。だからきっと、この感覚だって、偽物に違いない。

 小さく吹き出しながら、ぼんやりと街を歩いていた。

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