泣き虫の葵と、泣き虫の三姉妹

第1話 夜の囁き

葵は深夜、まだ箱に詰まった荷物に囲まれながら、新しいアパートの一室で目を覚ました。彼の眠りを妨げたのは、隣室から聞こえてくる、絶え間なく続く泣き声だった。その声は、何とも言えない哀れみと悲しみを帯びており、彼の心をひどくざわつかせた。

彼はベッドから静かに起き上がり、部屋を見渡した。昔ながらの和室で、畳の香りが新鮮だった。葵は一瞬、幼いころの記憶に浸りながらも、再び泣き声に心を奪われた。彼はゆっくりと部屋を出て、声のする方向へと歩を進めた。

廊下は薄暗く、壁の古い写真が月明かりに照らされていた。彼が隣の部屋のドアに近づくと、泣き声が少しずつ大きくなり、その表情はどこか恐怖と共感が混じったものに変わっていった。葵はドアに手をかけ、少し躊躇した後、ゆっくりとドアを開けた。

部屋の中は意外にも整然としており、窓からの月明かりが部屋の隅々を照らしていた。そして、そこには三人の女性が座っていた。彼女たちは美しく、古風なノースリーブのブラウスにふんどしを合わせていたが、その顔は涙で濡れていた。

彼女たちは葵を見ると、一瞬で表情を変え、驚きと恐れが混ざった顔で彼を見つめた。葵は優しく手を差し伸べた。「大丈夫ですか？何か手伝えることはありますか？」

最初は警戒していた三姉妹だが、葵の声の温かさに少しずつ心を開いていく。彼女たちの名は楓、皐、凛。彼女たちはこのアパートで長い間、他の誰からも見放された存在だった。

「私たちはここに閉じ込められて、何年も泣き続けているの」と楓が話し始めた。「でも、あなたは初めて私たちに話しかけてくれた人です。」

葵は彼女たちの話に耳を傾け、その悲しい過去を少しずつ理解し始める。彼の心にも、かつての痛みがよみがえりつつあった。それでも彼は決心していた。彼女たちをこの苦しみから解放し、共に癒やしを見つけるために。

この夜が、彼と三姉妹の新たな関係の始まりであり、彼らがお互いの心の傷を癒やし合う第一歩となったのだった。