泣き虫の葵と、泣き虫の三姉妹
星咲 紗和(ほしざき さわ)
プロローグ
葵が新しいアパートのドアを開けたとき、ひんやりとした空気が彼の頬を撫でた。この場所に足を踏み入れるのは、これが初めてだった。壁はかすれたペンキで覆われ、むき出しの電球が天井からぶら下がっている。日が落ちると、誰も住んでいないはずの部屋から、奇妙な光が漏れ出す。
「大丈夫、ここに来て正解だったんだ。」彼はそっと自分に言い聞かせながら、荷物を床に下ろした。新しい始まり、新しい希望。しかし、この場所が彼にとって何を意味するのか、まだ彼自身も知らない。
夜が深まるにつれて、葵は小さな音に耳を澄ませた。ギシリという床のきしみ、遠くで鳴る汽車の音。そして、何よりも彼の注意を引いたのは、隣室から聞こえてくるかすかな泣き声だった。彼は息を呑み、耳を疑った。まるで悲しみに満ちたその声が、何かを語りかけてくるようだった。
「誰かいるのかな?」葵は静かに呟いた。彼の心には恐れよりも、理解を求める深い好奇心が湧いていた。この一歩が、彼と「泣き虫の三姉妹」との、予期せぬ共鳴の始まりだった。
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