ラブコメ世界に男は邪魔なので、空気になって百合を愛でていたら男の娘にされました〜女友達も、美少女も、幼馴染もいる。なのに何かを間違えたラブコメ

薬味たひち

プロローグ ラブコメの女友達って絡みは多いけどあんまり進展しないよね

 


 この俺、袋小路ふくろこうじ歩夢あゆむが、16年の人生で達した結論である。


 だってさ~考えてもみてよ。

 男を見たくてラブコメ読み始める人、おる? 大多数はヒロインが目当てだよね。

 その証拠に、ラノベ第一巻の表紙を飾るのはいつも女、女、女。主人公(笑)はというと、まあミニキャラになってすみっこで透かした顔を披露できれば御の字でしょ。これが需要というわけだ。


 にもかかわらず。

 こんなどーーーでもいい男に選ばれたか否かで、彼女たちは正ヒロインだの負けヒロインだのと言われてるわけ。ほんっと馬鹿らしいよね。

 俺はそんな愚かなラブコメ主人公とはまったく違う。学園ハーレムも、男女の甘酸っぱい青春もまっっったく関係ない。

 願いはただ一つ。


 この学園に、


 いや~これぞ皆が読みたいラブコメでしょ。二次創作でヒロイン同士の百合は定番。本家でやってはならない道理はどこにもない。勝ちも負けもない、ヒロインみんなが笑顔になれる夢の世界がそこにはあるのです。

 しかも都合のいいことに、数年前に共学化されたここ藤ヶ崎学園はいまだ全校生徒の9割が女子! 百合の花園にはもってこいなのだ。

 たとえば、


『あなたのこと、ずっと大切なお友だちだと思っていたわ。だけど……もう、気持ちが抑えきれないの。どうか、どうか私と、愛を育んでくださらない?』

『気持ちは……嬉しいです。でも、あたしはあなた様のように美しくないですし……』

『そんなことないわ! あなたのそういう所が、私は愛おしくてたまらないの。あなたじゃなきゃ嫌なの!』


 みたいな百合百合した出来事が、日常にあり得るわけですよ。うへ、うへ、うへへ。

 そのまま身体を寄せ合い、熱い抱擁を交わし、顔を近づけて――


「な~にして~んの!」

「……げっ」


 とある少女に思いっきり背中を叩かれ、俺は美しき妄想の世界から一気に現実世界に引き戻されてしまった。


 えー、ここは1年B組の教室であり、いまは朝のSHR前の自由時間であります。そして眼の前の少女はいま、俺の机にがっつり腰を下ろしている。おい、机は座るところじゃないぞ!


 彼女は千城ちじょううさぎ。

 百合の花園計画の天敵である。


 だってね、こちとら入学式の日からあえて女の子たちと距離を置いてるの。それなのに、なぜか俺に絡み続けてくるんだもん。しかも着崩した制服と短いスカート、発育の良いお胸のせいで、いつも目のやり場に困るし。


「……なんか用か?」

「う~ん。用と言うか~、教室で私以外の誰とも話してないあゆくんを心配してる、みたいな~?」

「放っとけ。あとその呼び方やめろ」


 あゆって……俺は魚じゃないんだぞ。

 すると、千城は小さくため息をつき、呆れたように言った。


「まあ、あゆくんが恋愛嫌いなのは知ってるけどさ〜。女社会もドロドロで細くてしつこくて面倒くさいし、そんなに憧れるもんじゃないよ〜」

「いや、だからって男女の関係ほど醜いものはないだろ。告白するも男、リードするも男、奢るのも男、振られるのも男、マッチングアプリに課金するのも男だけ。そのアンバランスを男が下心の一点により引き受けていることをいかに心得る?」


 あぁ、男ってほんとバカ。恋は盲目というけれど、もっと現実を見るべきよ。

 だが千城はあまりピンときていないご様子だ。


「いや、いかにも心得ないけどさ。やっぱりあゆくんの偏見だと思うんだ〜。……私は元カレに告白したし、割り勘だったし、振られたし」

「あ、えっと……そう、なんですね」


 急に切ない空気を出されたため、話の腰が折られてしまった。千城さんってそういう恋愛するのですね。失礼ながらてっきり、彼氏を足で使うタイプだと思ってました。ごめんなさい。


「と、とにかく百合は素晴らしいんだよ! 友情ありきの恋だからこそ格差なんてない! 下心もない! 悲しみもない! 女の子が2倍で、可愛さ2倍、尊さ2倍のお買い得! まさに理想の関係性! お前も暇なら百合の花咲かせて来い!!!」


 ……しまった。

 つい熱が入ってしまった。

 千城も流石に引いた目をしており、周囲からも冷たい眼差しを感じる。


「えっ、と。まず最後の言葉は余計かもというかキモ過ぎるかもというか……セクハラで訴えられても文句言えないです」

「ぬぐっ……」

「はぁ。あゆくんにも一度女の子やって欲しいよ。想像の十倍は面倒くさいからね」


 俺が女の子に……オェ。変なこと想像してしまった。俺のスカート姿とか、気持ち悪すぎる。


「まあとにかくさ、あゆくんも少しは他の子と話してみなよ〜。きっと楽しいよ」

「興味ないね」


 俺は話しかけられないんじゃない。崇高な理想のため、話していないんだよ。隣の美少女とも、幼稚園来の幼馴染ともね。この違い、重要です。

 まあ、どうせこの女はな~んもわかっちゃいなだろうけど――


「わかった!」

「え、まじ」


 ついに理解したのか。百合の真髄を。

 と、一瞬思ったがやっぱりなんにもわかっていなかった。


「……ほんとはあたしを狙ってる、とか?」


 的外れも甚だしい。

 千城はご自慢のお胸を机に乗せ、無駄に色気のある表情で煽るように俺を見つめる。ふんっ、そんなの全然気にならない……わけもなかった。

 だって俺、男だもん。


「お、お前は勝手に……こっち来てるだけだろ」

「ばれた? テヘッ」


 今度はわざとらしく舌を出し、ゆっくりと腰を上げた。制服からわずかに覗く胸がプルンと揺れたのを、もちろん俺は見逃さなかった。


「あとさ、最後に一つだけいい?」

「なんでしょうか……」

「女の子たち見て『うへ、うへ、うへへ』って笑うやつ。あれはやめた方がいいと思うな~」


 悪意がこもった千城の声真似。俺のガラスハートにひびはいった。


「……俺、そんな笑い方してた?」

「うん、いっつもね〜。あっくん影で呼ばれているもん。『むっつり性欲猿』って」

「まじすか」

「うん、まじす」


 心外だ。

 俺は清い心で百合を拝んでたのに。女の子の奇麗なうなじとか、柔らかな頬とか、豊かなお胸とか、そんなの全然決して断じて興味なかったのに。


「あ、そろそろ先生来るかも。まったね~」


 こうして千城は嵐のように去っていったのだった。



――これは、どこにでもいる平凡なラブコメ主人公が、ヒロインだけの平和な世界の構築を目指す。そんなラブコメである――

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