第4話 めでたしめでたし?


 ギイッギイ

 水面を静かに舟が進んでいた。

 もうすぐ向こう岸が見えてくるころ合いだろう。


 話をした後男は、そばにいる妹と肩を寄せ合って穏やかに目をつぶっていた。


 辛く苦しい長い時間を過ごしていたのだろう。

 今この時だけは、穏やかな時を過ごしていた。


 話を聞いた船頭には何が正しいのかわからなかったが、

はた目から見てそれがある意味ゆがんだ愛情であったとしても、

困難の中にありながらお互いを思いやってきた二人が、今のまま穏やかに過ごせることを、ただ祈るばかりだった。







めでたしめでたし


「ままーこのお話めでたしめでたしじゃないよー」


 パパが帰ってこないと駄々をこねていたので絵本を読んであげたものの、

幼い子供はとても眠そうにしていた。


「まだ難しかったかな~。

 でもね、困難があったとしても、そばで支えて思いやってくれる人がいるってとてもかけがえのないことなの。

 たとえその時がつらかったとしても、きっといつかいつかむくわれて、笑顔になれる日も来るのよ。

 そういうお話かなって、ママは思っているのよ」


 隣に座っている母親がその頭をいとおしそうになでていると、

ガチャりと玄関の音がした。

 すっかり気がそがれてしまっていた子供はぱっと顔を輝かせると、ぱぱだーといって玄関のほうへ駆け出した。


「ただいま~」

 そこにはいつものように仕事を終えて帰宅しただんなさまの姿があった。


「お帰りなさい、あなた。今日もお疲れさま。」

「うん、でも今日はちょっと早くに上がれたからね、

ちょっと帰りに花屋を見てきたんだよ」


 はいこれ、いつものと渡すと母親は嬉しそうに微笑むと慣れた手つきで玄関に飾っている花瓶にそっと入れた。


「ずいぶんと眠そうだけど、今日は何をしていたんだい?」

「うーん、ままにねー、舟が出てくる、絵本読んでもらってたの

よくわからなかった~」


 そっかー、確かにあれはまだ難しいかもね、といいながら幼い子の手を引いて部屋に入っていった。


「じゃあさ今度のお休み、お弁当でも買って公園にお出かけに行こうか。

ちょうど花が見ごろの季節だし」


 暖かい灯が漏れているその家からは、幸せそうな家族の声が聞こえていた。



 花瓶には、一輪の桔梗の花が咲いていた。


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