第2話 とある双子の兄妹の話


 「お帰りなさいお兄さま」


 仕事を終え疲れた体を引きずりながら玄関を開けると、笑顔の妹が部屋の奥からでてきていつものように甲斐甲斐しく迎えてくれる。


(なんだか新婚夫婦のようだ)

 奥の部屋からは暖かいご飯のいいにおいがしてくるなか、ただいまと穏やかに返した。


 

 双子の兄妹として生まれた時から、二人はずっと一緒だった。


 両親は駆け落ち同然で街に来たらしく、その母は双子を生んだときに体を無理したのか産後すぐになくなり、父も働きづめだったため病によってなくなった。

 凶兆の証とされる双子だったということもありまわりからも歓迎されることもなく、頼れる親戚もいなかった、そんななかでも兄妹二人は狭い家で身を寄せ合って暮らしていた。

 そのためか、大人になった今でも妹は兄にべったりだった。


 妹も母と同じく体が弱かったため、体調のいい時は家で織物を、兄は外で病弱な妹の分まで働いていた。

 妹の医者代もかかり決して生活は裕福ではなかったが、幼いころから仲の良い二人は細々としながらも支えあいながら穏やかに暮らしていた。


 いつものように質素ながらも暖かい食事を二人囲んでいるが、時々ごほごほっと時折せき込む妹を見てため息をついた。


「お金をためておまえをもっと広い部屋に住ましてやりたいんだけど」

「いえ、私はお兄さまとこうしてこの部屋で一緒に暮らしているのが幸せなのです

 です。ただ、私が重荷になっていないかと…」


 気がやさしい妹の少し落ち込んだ顔を見て、兄は仕事帰りに耳にしたことに話を変えることにした。


「そうだ、帰り道に桔梗の花がいくつか咲いていてね。とてもきれいだったから今度いくつかとってくるよ。

 それに聞いたんだけど、街はずれの川を下っていった先にこの世の物とは言えないほど美しい花畑があるらしいよ。

 元気になったら、一緒に見に行こうか」


 少し明るくなった妹の笑顔を見ると、明日の仕事も頑張ろうと力がわいてきた。



 翌日、いつも通り仕事をしたのち、帰りみちに咲いていた桔梗の花を一輪摘むとこれを見て喜んでくれるだろうかと妹の喜ぶ顔を思い浮かべながら足早に帰宅した。


 家に近づくと自宅のほうがなにやら騒がしい。

 不安に思って足を速めると家のほうから、近所に住んでいる顔見知りが慌てて走ってきた。


「おい、今あんたを呼びに行こうと思ってたんだ。

 あんたの妹が倒れたって!今医者を呼んでるから、はやくいってやってくれ」


 それ聞くなり血相を抱えて家に向かった。




 その後、妹の容体を見終えた医者の顔は険しいものだった。


「残念だが、あの子はもう長くないだろう。

 あまりいいものを食ってなかったんだろうが、体力もない。

 こんなみすぼらしい部屋に子供二人で住んで、頼る当てもないんだろう?

 薬もせいぜい症状の進行をおくらせるだけだ。

 それに薬代さえ、もうあまり払えないのだろう?」


 服装からしてみすぼらしい兄にたいして、さげすんだ目をしていた。


「それでもいいです、私にはもうあの子しかいないんです。

 お金は、今まで以上に頑張って働いてお支払いしますので

 お願いします!」


 こちらを一瞥すると

 これだから双子は…と去り際に吐き捨てていった。



 部屋に戻るとそこには、布団の中でいつもよりより顔を青白くした妹の姿があった。

 こちらに気づいて体を起こそうとするのを止めると、いつもより冷たくなっている手を握った。


「すみません、お兄様、体を壊してしまって、ただでさえいつも迷惑かけてばかりなのに」

「大丈夫だ、お医者さまに薬ももらったしすぐによくなるよ」


「私はもういいのです、私の体はもう…。

 それにこれ以上お兄さまの負担にはなりたくありません」


 力なくうなだれるその姿を見ているのがつらくなり、気が付いたらその体を抱きしめていた。

「いいんだ、俺はお前がいてくれるだけでいいんだ。

 私には、もうお前しかいないんだ。

 今までもそうだっただろう?これからも助け合って生きていきたいんだ」


 そういうと嗚咽を漏らしながら涙を流した。

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