第36話


「もう葬式は済んだの?遺体もないのに」


「まだ済んでいないはずだけど。ご両親は…」


「僕の両親だってもういないさ。食われちゃった」


「さっきから食われたって言ってるけど、どういうこと?」


「きっといつか君も食べられるだろう。あいつは怪異食いだから」


「怪異…」


「なあ、いつまで忘れているつもりなんだ?お前」


「え?」


「そろそろ忘れたフリなんかやめろよ。ずっと憶えているくせに」



「自分の罪くらい自分で償えよ。それくらい自分でやれ」



***


「つ、月見さん…?!」


「待て、ミヤ。多分月見サンは死んでない」


「でも、この高さじゃ…」


「いいや、大丈夫だ。おそらく…だけど」


「っ…そんな、不確定なこと言わないで!もしものことがあったら…」



「なあ、もしもの事があったとして、お前にそれ関係あるか?」



「は…?」


「だって、あの人ただのクラスメイトだろ。お前がそこまでやる必要あるか?」


「な、何言って…」


「お前がやれることとか何もないだろ。警察に任せろって」


「っ…何言ってんだよ、達也くん…!!」


突如、達也くんの瞳の青色が強くなる。


世界中から見えそうなくらい強い光を持ち、


こちらをじっと見つめる。


酷く、冷たい目で。


酷く、輝く目で。


『お前にできることなんかひとつもねえんだよ、ミヤ____』


「そんな、こと…!」


『諦めてこっち側へ来いよ、ミヤ!!』


「達也くん!!」


こちらにゆっくりと近付いてくる。


ゆらり、ゆらりと。


怖い。恐い。


達也くん…なの?本当に?


『ははっ、そんなこと。俺が俺でなくたって別にお前に関係ないだろ。』


俺とお前は他人なんだからよぉ____と。


「た、達也く______」


首筋に鋭い感覚が通る。


痛い。いや、熱い?


『諦めろ。失望しろ。絶望しろ____ミヤ』


「た、つや、く__」


***


「まあ、僕も教室に戻るわ」


「戻って大丈夫なの?」


「大丈夫でしょ。ひとっ飛びお願い」


「まあ、いいけど…」


富士田くんの腕をがっしりと掴んで、


脚へ力を込める。


「じゃあ_____飛ぶよ!」


一気に力を込めて、地面から身体を離す。


この街のどのマンションよりも高く、高く。


「学校で、いいんだよねっ?舌、噛まないように気をつけて」


「学校でいい。ありがとう」


雲に届きそうな所まで高くなったところで、


向きなどを調整して、着地点が学校になるようにする。


「便利じゃん、ジャンプ」


「便利だよ。危ないけど」


***


「おっ、着いた着いた。砂埃がエグいけど」


「まあ、大丈夫。私も教室に戻らないと。」


「……待って。なんか『おかしい』よ」


スマホを取り出して、天底くんに電話する。


すると、すぐに出てきた。


「天底くん?ごめん、私なんだけど。今、何が起きてるの?」


『ああ、月見先輩、会えたんですね。今、怪異に犯されてます』


「怪異に?」


『ええ、十中八九新種でしょうね…こちらも調査してみますが』


「気をつけて。こっちも気をつけるから」


ブチッ、と乱暴に電話を切って、


富士田くんのほうを見る。


「富士田くん、これから_____って」


『ねえー、月見ちゃんー。私とー、遊びましょー』


「……それはもう、見るからに。」


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