花屋とタバコのお話。

@amy2222

第1話 「裏切り」

桜の花びらが舞うように、風が小さな店の裏手で微かに吹き抜ける。私はその風に誘われるように、裏口の階段に腰掛けていた。手にはトリマーを持ち、飾り過ぎないシンプルな花束を作る。両親が残したこの小さな花屋は、古びた看板と共に、町の片隅でひっそりと息をしている。


「久しぶり」と声がした。ふと顔を上げると、彼がそこに立っていた。小学校からの幼なじみで、今は地元の学校で教師をしている彼は、いつも通り、少し疲れた表情を浮かべている。


「タバコ、吸っていい?」彼は許可を求めながら、すでに一本のタバコを唇に挟んでいた。私は小さく頷き、彼のそばに座った。私もタバコに火を付ける。


清涼感あふれるメンソールのキックが口の中全体に広がる。ほのかに甘いアンダートーン。メンソールの強さは過度ではなく、むしろ穏やかで、息をするたびに涼やかな感覚を鼻腔まで運んでくれる。


煙が舌の上で溶けるように消えると、後味は清潔で爽やか、ほんのりとした甘さが残る。


その名の通りピアノのピアニッシモのように、穏やかで控えめながらも、深い満足感を与えてくれる。今日も良い日だ。


「生徒の下校見てたんだ。ここ通るのがちょうどいいんだよね」と彼は言った。彼の声はいつもより少し柔らかく、それがまた、この場所とのギャップを感じさせた。


彼はライターで火をつけ、深く一息吸う。タバコの煙が、夕暮れの光の中で青く光っている。彼が吐き出す煙は、やがて空気に紛れて消えていった。



私たちは言葉を交わさないで、ただそこに座っている。時々、彼の手が動き、灰を落とす。その小さな動きが、どこか慰めを与える。夕日が店の小窓から差し込み、彼の顔を柔らかく照らす。その光の中で、彼は少し若返ったように見える。


「なあ、タバコは身体に悪いって知ってるか?」彼の言葉に私は思わず微笑んだ。「知ってる。死にたいからやってる」「そか。同じだな」こうしてまた一日が終わる。私たちは何も変わらず、また明日を迎える。


「でも俺はいいけど、お前はちゃんと生きるんだぞ。教師は死んでも良い職業だが、花屋は、その、駄目なやつだからな。」そう言って手を振る彼を見送る。


謎理論すぎるだろ、とおかしくて笑えてくる。慰めるのが下手すぎだ。だいたい不良教師のくせに他人の心配をするなと思う。手に持った箱を見ながら呟く。


「これだって、お前が教えたんだろうがよ。」


教師のようなことを言う教師に毒づきなから、もう1本だけ、と火を点ける。ため息のように煙が昇る。馬鹿も煙も高いところに行きたがる。天国の神様はヘビースモーカーにでもなればいい。まさに天国だ。そんな馬鹿げた妄想をして頭がクリアになる。気持ちも落ち着く。


携帯電話の時間を見る。そろそろ戻ったほうが良いだろう。店内に戻る。裏口のドアを開いたとき、その花の匂いにむせそうになりながら、咳をこらえる。

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