居石入魚の作家飯
居石入魚
第1話 汁物について
具材は少ない程、良い。
素材の味がハッキリする。
味の輪郭がボヤけない。
具沢山な味噌汁は美味いけど。
毎日はキツい。
何がキツいって。
野菜のカットから肉のカットから。
そんで洗い物も増えるし。
料亭を経営する叔父から俺が学んだのは。
『汁物は具材三つまで』
これは真理だったし。
これは真実だったし。
なにより。
現実的だった。
味噌汁はさ。
毎日食うもんだから。
安く。
美味しく。
ついでに簡単に。
叔父の店は京懐石の料亭で。
出汁の引き方だけは怒鳴られた。
優しくなんでもテキトーな叔父だが。
出汁だけは。
本気で真剣に叩き込まれた。
具材が少なくて済むのも。
出汁がシッカリしてるのが前提。
仕込みは前日の夜から利尻昆布の根元を寸胴鍋に入れて弱火で焚いた。関西料理だから昆布出汁がメイン。鰹節を加えて琥珀色にはしない。お吸い物に色が入ってしまう。
だけどさ。
んな、懐石の出汁なんか手間だしさ。
例えばの話。
鱧をお吸い物で提供してさ。
「貴様!鱧の白身に色が入っているではないか!この私を美食倶楽部の海原雄山だと知っての事か!?」
みたいなヤツが客に来たら。
俺は間違いなく馬車から飛び出すアリーナ姫の如く、煮方を放棄して殴り掛かる。
だから。
この読み物は。
家庭で京懐石っぽい料理を。
そんな軽い気持ちで読んでくれな。
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