第4章 種を滅ぼすものたち 23
この年の新年パーティで俺が叙爵されること、そしてリディアーヌ王女の正式な婚約者となることが国王より発表された。
その後、俺が最初にしなければならなかったのが領地経営の勉強である。3つの村があるだけの小さな領地だが、俺も領地貴族の仲間入りを果たしたわけだ。
――いや、爵位が欲しいとは言ったよ。シルヴィと結婚するのに平民のままというわけにはいかないし。だけどさ、領地を与えられるとは思わないじゃん。まだ15だよ?
この国、15で成人だったわ。
与えられてしまったものは仕方がない。新年パーティの貴族たちが集まる場で発表されてしまったのだ。国王を反意させるのは難しいだろう。
そしておそらくなのだが、意図的にストラーニ領とは離れた土地を与えられた。俺と義父殿を引き離しておきたいという思惑が透けて見える。
ただ王女が嫁ぐ先としては村3つはあまりにも侘しい。
そう思って調べてみたところ、どうやら俺に与えられた領地は直轄領に接している。
その直轄領にはウイエという名の都市があり、代官が1~2年おきに次々と変わっている。どうやらこの地に赴任した代官はどうしても汚職への誘惑に勝てないようだ。それだけ金の動く町、ということなのだろう。
ピサンリが帝国と接するシクラメンへと物資を運ぶための要衝だったのに似てるかも知れない。このウイエという町は、王都オルタンシアから東部方面に物資を運ぶ時に避けて通れない場所にあるのだ。
山から流れ落ちる大河の渡河地点でもあり、橋の補修費用積立金の名目で取っている通行料による収入が町を潤している。貯蓄されている積立金は膨大な額であり、ちょっとくらい、という気持ちになってしまうようだった。
つまり将来的にこの地を治めよ、ということなのかもしれない。ウイエを手中に収めている者であれば、王女が嫁ぐ先としては悪くない感じがする。
一方で面倒ごとを押しつける気だな、とも思った。
ウイエは問題の起きている町で、代官の汚職は表に出てくる一面でしかない気がする。そうでなければどの代官でも汚職するってことになるはずがないのだ。代官が汚職するように導いている誰か、あるいは組織があるはずだ。
まあ、今のところ俺は3つの村を治める男爵になることが決まっただけで平民の若造だ。こんなのは
叙爵も決まっただけで、まだされてはいない。金属書の翻訳作業もまだ終わってないしね。
こちらの作業も全体のまだ3分の1というところで、古代文明とは言っても、その字面からつい思い浮かべてしまうような超文明というわけではなく、本当に文明の火が熾ったところという感じだ。
魔法を持たない人々が生きるための仕組みを作り始めたというところ。
驚くべきことに魔法使いたちは文字を持っていなかったので、魔法を使えない人々が文字を発明しなければ、この記録すら残せなかったという。
そんな魔法使いによる記録なので、なんというか割りと適当感がすごい。どの出来事がいつ起きて、どうなったかが分かりにくいのだ。
とりあえず分かったことは、この金属書を作った魔法使いは、魔法を使えない人々が台頭し、魔法使いたちの数がほとんどいなくなった時代に純血の魔法使い――というか、魔法使いであるなら純血種である――として生まれたようだ。
魔法を使えない人々が作り上げた文明を享受して育ち、他の魔法使いと子を成して魔法使いの血を残そうとしたが上手く行かず、最終的にダンジョンを製作してその奥に引きこもった。
金属書は自分たち魔法使いの存在した証を残したくて製作した物のようだった。彼は迷宮を突破できるほど文明が進んだのであれば、過去の歴史を保全するような機運になっているのではないかと推測していたようだ。
残念ながら世界はまだそのようにはなっていない。国王が求めるのも古代文明に現代を超える技術や知識があるかどうかだ。金属書のようなものを作れたのだから、という期待もあったのだと思う。だがこれは魔法使いによる特異な例でしかなく、実際のところ、書き残された歴史や技術書を読んでも現代を超えるようなものは無い。
俺の叙爵が男爵なのも、金属書の内容があんまり価値がなかったというのもありそう。
一方、クララ・フォンティーヌだが、彼女は絶望派をある程度は立ち直らせ、精力的に翻訳活動に寄与した。黒い宝石を渡す約束を守らなければならなかった。が、今のところ彼女は魔法使いにはなっていない。
以前、ネージュとシルヴィの黒い宝石を持っているときは気付かなかったのだが、クララ・フォンティーヌから摘出した黒い宝石と比べてみると明確に違いがあった。
黒い宝石の人の心に食い込んでくる性質自体は同じなのだが、内包する魔力量が外部から感じ取っても分かるほどに多い。
それが感じられないシルヴィの黒い宝石でも割れた時に帰らずの迷宮の大空間を満たすほどの魔力量だったのだ。クララ・フォンティーヌから摘出した黒い宝石に内包された魔力量はちょっと想像ができない。
なのでネージュの黒い宝石を渡したというか、移植しました。
結果としてクララ・フォンティーヌは魔力を感じられるようになったようだが、その変換能力までは手に入れてないし、魔法無効化能力も手に入れていない。準魔法使い見習いの下働きくらいだろう。
本人は訓練してないせいで魔法が使えないものだと思っているようだ。ずっとそう思っててほしい。
ミシェル・アラールはそれなりに上手くやっている。
国王が言っていたように貴族の自殺に使用人が使われることはままあるようで、周りもあっさり受け入れてしまったからだ。彼自身は有能なので、きっちり仕事を熟してくれていれば、俺から言うことは何も無い。
恐れていたアルデの再襲撃も無かった。
与えるだけ与えて、後は放置するのが黒マントのやり方なんだろう。
黒い宝石の作り方とかも聞いておくべきだったな。これだけの魔力をどこから集めているのか気になる。その収斂方法もだ。
しかしなんで黒マントが動き始めるのがこのタイミングだったのだろうか。
あるいは天使さまは黒マントが動き始める時代に合わせて俺を転生させたのかもしれない。神様ともなると時間の前後とか関係ない存在かもしれんし。
俺が前世で死んだ以降の時間で魔法使いが生まれるタイミングがそこだけだったのかもしれん。
もしそうだとすれば、俺は黒マントの凶行を止めることを期待されているのだろうか? 分からない。
天使さまと交信する手段が無いのが悔やまれる。
そしてこの年の秋の終わり頃、俺たちの人生を大きく変える1人の使者が王国にやってくることになる。
それは北からやってきた。
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と言ったところで第4章は終わりです。
第5章「黄泉返りの魔王」編は、なろう版を改稿するだけ、なのですがッ! 「異世界現代あっちこっち」が止まりに止まっていますので、いったんそちらを優先させてください。
合間を見ながら改稿しつつ、第5章も公開していけたらなと思っています。
今後とも魔法チートと異世界現代あっちこっちをよろしくお願いいたします。
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