四畳藩の日常

居石入魚

第1話 四畳藩の日常

 「老中老中。民から目安箱というかご意見箱に投書が。私達はイージス艦で明治政府をイジメるのを仕事にしてますけど、佐渡島では役場で働く地方公務員なわけです。民の声には耳を傾けませんと」

 「聞こう。申せ、種子島」

 「まずは島の年寄衆からです。えっと、“黒田が家老になってから年寄の肩身が狭い。年寄は大事にしろ。市政に口出しさせろ。暇だからかまえ”っつーご意見が寄せられてます」

 「文句あるなら直接基地の医務室に来いと伝えておけ。俺が軍医してる時なら時間もあるし面倒みてやるから」

 「面倒な年寄がクレーマーになるのは幕末でも変わりませんねえ……。でも、一度でも話を聴けば調子こきませんか?」


 「ワンパンで黙らせるわ」

 「お年寄りをKOすんな!どんな力で殴るつもりだ!」


 「だって年寄が内政に口出しすんの増えるばっかじゃねえか。お前が基地司令になってからワガママな爺が一般庁舎で騒いでんの見ない日がねーぞ?役所機能を持つ一般庁舎周辺なら兎も角、基地は一般開放してねえんだからな?」

 「軍事基地内部に役場設置したんで平気で入って来ますからね、民は。基地の食堂も当たり前みたいに利用してますし」

 

 「ならサラダにトリカブトを混ぜてしまえ」

 「お年寄りに解りやすく毒を盛るな!そんなん雑過ぎるわ!」

 「ニンニクとオリーブオイルとペコリーノチーズ。朝採りのスライストマトにカットしたアボカドを散らしてお召し上がり頂く」

 「サラダの彩りが雑だって話じゃねえよ!民の殺し方が雑だって話な!?」


 「だって話にならねえんだもん。私は意見するけど貴方の意見は聴きませんよーって連中だぞ、クレーマーって」

 「だからと即座に暗殺はバイオレンス過ぎると思う……。」

 「利用者が集まる時間帯に現れて騒ぐのも問題だ。あれでは近いうち住民課で働く若妻会の皆が高血圧で倒れる」

 「確かに……。ですけど、クレーマーと利用者は一目で判別出来ませんよ?同じ島の民なんですし」

 「んじゃご意見箱に投書したヤツの住所に判りやすい服装で黒田んとこに行けって返信してくれ。一応、公文書になっから四畳藩の判子と基地司令であるお前のサイン付で」

 「それぐらいなら別に良いですけど。どんな服装で来て下さいって打診しますか?」


 「タキシードに鉄兜。胸ポケットにハイビスカスと電卓。靴はゴム長靴でアコースティックギターを背負い、両手にサーティワンアイスのチョコミント味。オークリーのサングラスをかけて口に桜島大根を咥えて暴れん坊将軍のテーマを歌いながら来いと打診だ」

 「基地来るまでに捕まるわ!年寄がそんな色々なボケをやるわけねーだろ!」


 「いや。クレーマーはやる。自分の意見を通すのに一生懸命だからな」

 「もし本当に来たらどうすんだ……。」

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