第56話 泉の妖精



「……それで、あなたは?」



「泉の妖精、イズミンやで」



「ええ……」



 突然、泉の中から現れた魚の見た目をした妖精、イズミン。

彼(?)の話によると、ウォーリーちゃんの様に泉の中を移動できる妖精らしい。



「ベルベルちゃん、その妖精はなんて言ってるんだい?」



「えーっと、なんかビャクヤの西にある森に犯罪者が潜伏してるらしいです」



「ああ、“女神の森”か……たしかにあそこなら身を隠すにはもってこいか」



「女神の森、ですか?」



「森の奥にある泉から女神ミミエリが現れた……という言い伝えがあるのさ」



「なんか、泉に落とした物を金色にして返してきそうですね」



 金の斧なんてもったいなくて使えないけどね。

昔のどうぶつの森みたいに壊れないなら良いんだけど。



「最近、森の泉が汚いんやなー」



「泉が汚い?」



 イズミンはこのビャクヤの街にある小さな泉と、件の『女神の森』にある大きな泉を行ったり来たりしてるらしい。

しかし最近になって、森の泉の近くに魔物が現れ、その瘴気によって泉の水質が悪化しているとのことだった。



「おそらく、ウルーソが使役している魔物の影響だろうね」



「その、ウルーソっていう魔物使いはどんな魔物を使役してるんですか?」



「ギルドからの資料によると、ダーティートードの上位種らしい」



「ダンディトド?」



 ダンディな……トド? ハードボイルドシーパラダイスね。



「ダーティーだよ、ダーティートード。毒性が強くてね、棲家を毒の沼地に変えてしまったりするんだ」



 通常のダーティートードはそこまで強くはないらしいが、大量発生しやすい魔物なので定期的に討伐依頼が出るらしい。



「そんな感じで、そもそもダーティートード自体が周りを汚染させる魔物として、使役することが禁止されているんだけどね」



「それじゃあ、その上位種っていうのは……」



「おそらくヴァイオレット・ダーティートードだろう。通常個体よりも大きく、毒性も強い。もちろん使役自体禁止だし、そもそも登録済みの使役魔法はほとんど効かないはずだ」



「その魔物を使役するために、ウルーソは自分で開発した違法な使役魔法を?」



「そうだろうね。実際、その魔法でヴァイオレット・ダーティートードの使役に成功したんだろう。しかし、それはとても危険だ。いつ使役魔法が解除されるか分からないからね」



 使役が解除されて 魔物が暴走したら、ビャクヤの街まで汚染が広がってしまうかもしれない。



「綺麗な泉、返してほしいやで」



「イズミン……」



 泉の妖精、イズミンはどこか悲しそうな顔をしてヒレをパタパタさせた。

うーん、魚っていうか、イルカに近いわね。



「何はともあれ、ターゲットの潜伏先が分かったんだ。さっそくヤツを捕まえに行こうじゃないか」



「だ、大丈夫かな……」



 そんな感じで、わたしとアサツキさんは魔法犯罪者の魔物使いウルーソを捕まえる為、ビャクヤの西にある『女神の森』に出発するのであった。



 __ __



「というわけで、ここが女神の森なんだけど……」



「ビャクヤからすぐでしたね」



「まあ、ほとんど街続きだからね。それよりもさ」



「……魔物使い、成敗」



「いやあ、頼むやで」



「デュラちゃんは良いとして、何故イズミンまで?」



「道案内してくれるらしいです」



「泉から出ても大丈夫なのかい」



 女神の森へ向かう途中、いつの間にかデュラちゃんが合流して、しかもイズミンも付いてきていた。

見た目完全にイルカだから水の中しか移動できないと思ってたのに、普通に空中に浮いている。これが妖精クオリティ。



「デュラちゃんのダンナ、よろしくやで」



「……お前を消す方法」



「カイル君じゃないんだから」



 あ、カイル君っていうのは、昔のパソコンの……まあいいか。



「アサツキさん、妖精同士って仲悪かったりします?」



「どうだろう、妖精同士の相性もあるんじゃないかな。人間と同じでさ」



「人間と同じ……」



「あ、ボクはベルベルちゃんのこと好きだよ。相性バッチリだね」



「そ、そういうのを求めてたわけじゃないです」



 イズミンは結構誰にでも気さくな感じだけど、デュラちゃんは孤高の妖精タイプなのかも。

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