第44話 魔法の杖



「すいませーん」



「はーい! ちょっとお客さん来たみたいだから、アタシはお店に戻るわね。あ、日が暮れたら一緒にごはん食べにいきましょうね」



 ちゅっ。



「ひゃわっ!?」



 そう言って、サントリナさんはわたしのほっぺにキッスをしつつ地下室から1階の店舗へ戻っていった。



「はは、まったく、サントリナは相変わらず奔放だね。でも彼女のポーションはとても評判が良くてね。わざわざ別の国から買い付けに来る商人もいるんだよ」



「そ、そうなんですね……」



 やっぱり、被験者が若い子に偏ってるとはいえ、ちゃんと効果を確かめてるから信頼性が高いのかしら。



「……魔女って、みんなあんな感じなんですか?」



「あんな感じとは?」



「その、気軽にキッスしてきたり、若い男の子を、その……」



「いや、あれはサントリナだからだよ。ボクはベルベルちゃんにそんなことしないし」



「アサツキさんは若い男の子好きじゃないんですか?」



「回答に困る質問だね。別に嫌いじゃあないけどね」



 まあなんにせよ、大釜でグツグツ煮込んで食べちゃうような魔女じゃなくて良かった。

わたしが泊まることになったお部屋も可愛いし。

なんで可愛くなったのかはもう考えないようにしよう。



「それじゃあベルベルちゃん。部屋に荷物を置いたら、少しビャクヤの街を案内するよ。ボクが被ってる魔女帽子のお店とかもあるよ」



「あっ良いですね、わたしもそれ欲しいです。案内お願いしますね」



 __ __



「そういえばアサツキさんは、魔法を発動するときに杖とかは使わないんですね」



 アサツキさんにビャクヤの街を案内してもらいながら、ずっと気になっていたことを聞いてみる。

やっぱり魔法使いと言えば魔法の杖のイメージがあるので、この世界ではどうなんだろうと思っていたのだ。

ヘイリオスの街や、ここビャクヤでも杖を持っている人を見かけたので、どうやら使ってはいるみたいなんだけど。



「ああ、ボクが行使するのは“精霊魔法”だからね。杖は必要ないんだ。杖を媒体にして魔法を使うのは“魔石魔法”を使う人たちだね」



「魔石魔法……」



 前にアサツキさんから説明されたときの事を思い出す。

この世界では、人間が魔法を使う方法として、主に『精霊魔法』と『魔石魔法』の二つがある。

そんでもって、わたしの『妖精魔法』は使用率確認不能というか、例外中の例外みたいなものらしい。



「精霊魔法は、契約している精霊にお願いして魔法を発動する。このお願いする時に使う言葉が精霊言語……ボクが唱えている魔法の詠唱という感じだね」



「それじゃあ、魔石魔法の人はどうやってるんですか?」



「魔石魔法は、魔石に含まれる魔力を使って魔法を発動するんだけど、この時に魔石から効率よく魔力を引き出すのに使う魔道具が魔法の杖だね」



 魔法の杖は、魔力と相性の良い種類の木で作られるらしい。

素材にされる木によって、発動しやすい魔法の種類や、使う人の相性なんかもあるので、その辺りをお店の人に鑑定してもらって、1人1人に合った杖を選んでもらうのだとか。

それで『まさかこの伝説の聖樹の使い手が現れるとは……』みたいな感じですごいレアな杖とか貰ったりしちゃったりね。



「いいなあ、わたしも魔法の杖、使ってみたい……」



「ベルベルちゃんの魔法の発動に杖いらないでしょ」



「ロマンですよロマン! ほら、なんかこう、妖精さんが好きそうな魔法の杖とかないですかね?」



「妖精が好きそうな杖か……あ、そうだ、それなら……」



 アサツキさんが子供向けのおもちゃを売っている露店に向かう。

そんなところに魔法の杖が……?



「これとか良いんじゃない?」



「これ……」



 アサツキさんが選んだのは、なんというか、日曜日の朝にやってるアニメのヒロインが変身するときに使いそうな可愛らしいハート形の杖だった。



「なんですか、これ?」



「『月光勇者プリティ☆ルナムーン』っていう、最近流行ってる子供向けの絵本のヒロインが持ってる魔法の杖だよ」



「それ、魔法の杖として使えるんですか?」



「いやただの販促用グッズだね」



「ええ……」



 明らかに素材が木ではない、キラキラしたピンク色の杖を手に取り、わたしに差し出してくるアサツキさん。

いやそんな、『お似合いだね』みたいな目で見られても……



「あ! プリルナの杖だ~! おねえちゃんプリルナすきなの?」



「えっあ、わたしは、ちょっと」



「おねえちゃん、ルナシルフィに似てるね!」



「えっ? ルナシルフィ?」



「プリルナのヒロインの1人だね。風魔法が得意なんだ。良かったじゃないかベルベルちゃん」



「いや知らないし……」



「おねえちゃん、その杖欲しいの? じゃあルナシルフィに似てるからその杖あたしが買ったげる!」



「えっどういうこと!? いや悪いよそんなの!」



「はいどうぞ!」



「買うのはや!! ちょっと、これ……」



「それ大切にしてね! バイバーイ!」



「ええ……? ちょ、返品……」



 わたしに月光勇者プリティ☆ルナムーンの杖を無理やり買い与えてきた幼女の姿はもう見えなくなっていた。

なにあの子? もしかして妖精?



「や、やったねベルベルちゃん……こ、これで魔法が使えるね……」



「アサツキさん笑ってますよね!?」



 ベルベルは 魔法の杖? を手に入れた!

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