第29話 ダックフロッグ



「ゲッコグワアアアアアア!!」



「イヤアアアアアア!! 無理無理無理!! アサツキさんあれは無理です!!」



「大丈夫だよベルベルちゃん。なあに、ちょっと大きいだけのダックフロッグさ」



「ちょっとじゃないですよ!!」



 ダックフロッグを1匹倒してひと安心。この調子でどんどん倒していくぞー! と思っていた矢先に湖の中から突如現れた巨大なダックフロッグ。

いやこれ、わたしの身長どころかちょっとしたプレハブ小屋くらいあるんじゃないの。こんなのどうやって倒したらいいの……?



「まあでも、正直この大きさだと依頼のランクはもうひとつ上でも良い気がするね」



「じゃあやっぱり全然ちょっと大きいじゃないじゃないですか!」



「まあまあ落ち着いて。さっきの小さいやつを倒した時と一緒で、ベルベルちゃんの魔法で拘束してくれればボクが何とかするからさ」



「うう、わかりました……」



 そもそもあんなに大きなダックフロッグを拘束できるのかしら……?

で、でもわたしが受けた依頼だし、責任は持たなくちゃっ……!



「え、え~い! ぴかぴかすとりんぐ~☆」



 ぱあああああああ……!!



「ゲコグワァ!?」



「あ、普通に効いた」



 巨大なダックフロッグに合わせたサイズの糸が出現し、相手を拘束する。そこ自動で調節してくれるのね。まあ便利。



「アサツキさん!!」



「お任せあれっ! あ、ちょっと詠唱長いやつやるから拘束解かないでね」



「ええっ!? ちょ、ちょっと!」



「ゲコグワアアアア!!」



「キャアアアアアア!! すっごい暴れてる! アサツキさんすっごい暴れてます!!」



「…………」



 あっだめだなんか詠唱に集中しちゃってる。



「う……大丈夫、大丈夫よベルベル。多分気持ちで負けなきゃ魔法は解けないはずだわ」



 このビッタンビッタン暴れる巨大なダックフロッグを見てるとだいぶ気力が削がれるけど。

後でかわいい妖精さんとか見つけて癒されよう……



「よーし、いくよっ! “サンダーヴァン”!!」



「ゲコグワッ!?」



 アサツキさんの手の先から光の塊が発射され、当たったダックフロッグが一瞬にして光に包まれた。



「あ、石になった」



「どうだい、さっき倒したやつと比べるとかなり大きな魔石だろう。これはかなりの魔力を含んでいるよ」



「は、はあ……まあでも、なんとか倒せてよかったです」



 さすがアサツキさん。ギルドランクAの魔法の前では、巨大なダックフロッグもイチコロみたい。



「よし、それじゃあこの調子でどんどん倒してこうか!」



「は、はい……」



 それからわたしとアサツキさんは、ミオカンデ湖にいるダックフロッグをひたすら倒して回ったのだった。



__ __



「つ、疲れた……」



「大きいのが4匹に、小さいのが35匹……依頼達成の量よりもかなりたくさん倒せたね」



「これで、しばらくは湖の魚も安心ですかね……」



「ふふ、また依頼が出てたら受けてあげなよ」



「勘弁してください……」



 巨大なカエルと接するのは精神的にしんどいわね……早く宿に帰ってシャワー浴びたい。



「魔石は証拠として漁業ギルドに確認してもらった後、そのままボクたちが貰えるみたいだから結構お得なクエストだったかもね。たくさん倒したのが無駄にならなくてよかった」



「わたし、魔石を貰っても使い方なんてわからないんですけど」



「そうだねえ。ボクは魔石魔法に必要だからそのまま使えるけど……いらなかったら商業ギルドの魔石商に買い取ってもらえばお金になるよ」



「魔石専門の商人さんがいるんですね」



 ダックフロッグを倒して手に入れた魔石はアサツキさんと山分けすることにした。

この依頼の報酬自体はそこまで高くなかったけど、魔石が貰えるからたしかに割りが良いクエストだったのかも。



「それじゃあアサツキさん、そろそろ街へ帰……えっ?」



「どうしたんだいベルベルちゃん……ん、あれは」



「…………」



 湖のほとりでダックフロッグを討伐し、王都へ戻ろうと帰り道の方角を振り向いたとき。

いつからそこにいたのか、1頭の白い馬が静かにこちらを見ていた。

いや、それはただの白馬ではなく、下半身……というか身体は馬なんだけど、前脚の上には馬の首ではなく、白銀の鎧に包まれた人間の胴体。そして……鎧兜は無し。



「ケンタウロスの亜種か? いやしかし、頭が無い……アンデッド系の魔物かもしれないな」



「いえ、アサツキさん。あの子は多分……妖精です」



 あれは多分……デュラハンだ。

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