第22話 ころころ
「よ~し、完成したわ!」
厚紙を切って、糸を通して……びゅんびゅんゴマの出来上がり!
「ほら座敷わらしちゃん、こうやって横の糸を引っ張ると……」
「びゅんびゅん」
「そう、びゅんびゅんって音がして」
「のーころころ」
「あ、やっぱり違うわよね」
座敷わらしちゃんが遊びたいのはびゅんびゅんゴマではなかったらしい。
いや分かってたんだけどね。これでも満足してくれるかな~って。
「う~ん、やっぱり“ころころ”がなにか分からないとクエストが進められないわね……って、もうこんな時間。お風呂に入ってこないと」
宿屋のお風呂は使える時間が決まっているので、それまでに入らないと濡れたタオルで身体を拭くだけになってしまう。
日本人としてそれだけは看過できないわ。手術や検査前日とかでどうしても入れない日以外は、入院してたときもお風呂だけは毎日欠かさず入っていたもの。
「……あっ! そういえばわたし、バスタオルとか持ってない!」
しまったな……昨日はタイムさんの家に泊まって、そこで一式借りたんだった。
ど、どうしましょう。アサツキさんに借りようかな……
「おや、ベルベルちゃんじゃないか。風呂場の前であわあわしてどうしたんだい?」
「あ、アサツキさん! タオルを1枚貸してくれませんか? わたし、入浴用のタオルを今持ってなくて……」
「ああ、それならマスターに言えば貰えるよ。ちょっと待ってて」
そう言うとアサツキさんは1階の酒場にいるマスターさんの所まで行って、タオルを貰ってきてくれた。
「はい、これ使って」
「ありがとうございます。でも良いんでしょうか、タダで貰っちゃって」
「なんかたくさんあるから宿を利用してくれた人にサービスであげてるんだってさ。肌触りも良くて、ボクも気に入ってるよ」
本当だ。お父さんがお中元とかで仕事先の人から貰ってきてた、ちょっと高級なタオルみたい。
「……お風呂、一緒に入る?」
「だ、だだだだ大丈夫です!」
わたしはゆっくりお風呂に浸かり、色々あった今日の疲れを癒すのであった。
……。
…………。
「ふぁ~いいお湯だった。これであとはお風呂上がりのコーヒー牛乳でもあれば完璧ね……いや、バニラアイスも良いかしら……」
「おまえをころころす」
「あ、間違って座敷わらしちゃんの部屋に来ちゃった」
今日はもう諦めて寝ようと思ってたのだけど、ついクセでこっちの部屋にきてしまった。
「座敷わらしちゃんはお風呂入らないの?」
「よーふくぬれぬれ」
「服が濡れるって……いやそのまま入るわけじゃないから」
「のーころころ……ころ? っ!! ころころす!!」
「えっきゅ、急にどうしたの? あ、このタオル?」
座敷わらしちゃんが何かに気付いたように急に騒ぎ出し、わたしが首にかけていたタオルを指さす。
「ころころ! ころころ! つくったやつ!」
「えっ? ころころで作ったやつ……? もしかして、このタオルをころころで作ったの?」
「いえすいえすいえす!」
「すーごい肯定するじゃない」
ってことは、このタオルが作れるような、裁縫セットとかミシンみたいなのが『ころころ』ってことなのかしら。でもそんなもの、どこで手に入れれば……
「待って、この宿の名前って、金の糸車……」
糸車って、たしか綿とか羊毛を糸状に加工する機械よね……?
もしかしてそれで作った糸で、このタオルを……?
「糸車……車……いや車輪? ころころ……ころころだわ! 座敷わらしちゃん!」
「ころころ?」
「そう、ころころ! ころころで遊べるかもしれない!」
こうしちゃいられない、マスターさんに話を聞きに行かなくちゃ。
「マスターさ~ん!! ころころ、じゃなくって……金の糸車って実物の」
「がはは! 元気の良い嬢ちゃんが来たぞ! ほれ、乾杯~!!」
「お嬢ちゃん! なにか歌って歌って!」
「うわあ!! えっちょっと!?」
マスターさんに会いに1階に降りて行ったら、酔っぱらった酒場のお客さんたちに絡まれて、閉店時間まで歌を歌ったり踊ったりさせられた。とほほ……
でもお駄賃をちょっと貰えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます