僕でも生きて居て良いって、言って下さい。

マーまーまき

第1話 殺していきたい


2132年。

日本国では、貧富の格差が拡大し、相対的貧困者は約50パーセントに上り、絶対的貧困者はその内約15%に。

5つの財閥が日本を握り、たとえ個人経営の小さな店であっても、財閥の影が掛からない所など無いと揶揄され、最早政府はおろか政治の一切すら財閥が国民にもたらすこの時代。


―――農業、畜産等の食物を支配する『五芒財閥』

―――採掘、鉄鋼業等の資源を支配する『遠宮重工』

―――携帯、水道等のインフラを支配する『富国グループ』

―――建設業、観光地整備等のサービスを支配する『不動観』


そして、今の日本において最も影響を及している、銃火器、戦車等の軍事産業を支配する『国本軍商』。



この世界において、金も、心も、すら持たない少年は、








―――命だけは繋げることが、出来るのか。




















薄暗い町、そしてみっともなさを隠すあらゆる彩色の壁。

晴天など無きこの地で、また灰色の地面が彩られる。


そこに立つは、銃を握る齢16ほどの少年。そこに散るは、真紅の血と、一切れの赤いパン。

見下ろす少年は、満たされ悦を浮かべた表情で、地面にとめどなく、大粒の涙を垂らす。



「おじさん…痛いって言いながら、でも何で僕のことを睨みつけながら、消えてっちゃうの? ねぇ、僕のしたいことなんでもさせてくれるんじゃないの? 僕は大好きなのに…おじさんも大好きだったのに…なんで、なんでなの?」


「『記念日』に殺してあげたんだよ…?」




―――『胞蒸弾ぼうじょうだん


嘗て、財閥同士が支配を広げようと互いに争う時代もあった。

その時代において、より合理的に、それでいて携帯的な、誰でも証拠を一切残さず、一撃で殺せる兵器が求められた。その需要に完璧にマッチした国本軍商発の兵器。


性能としては、極小の弾があらゆる細胞の核を侵食させ、1分後に消滅。

その効能が身体中に転移、伝播することで、人間の体、血痕一つ残さず数分で消し去ることが可能。



しかし、財閥同士の棲み分けにより、無用となったそれは何時しか殺しを求める悪が巣食うスラムへと流れ出し、今となっては薬中の死骸から拾えたり、口減らしとして多用されることになった。





そして―――この少年、「間宮まみや 合戸あいと」は、運良く縄張り敷かれた埋立地から胞蒸弾を数多手に入れ、彼の求める「愛」のため、誰かを殺し回る。



「ねぇお父さん………誰かと仲良くなって…後ろから殺しちゃえば『いいこと』あるの?」

「ねぇお母さん………『痛い』って言うのは相手が大好きだから出る言葉なの?」


「………………そうしたら、僕は暖まるの?」



間宮合戸は、彼への教え通りに死に、もういない人に憂いを吐露する。

彼はまた、自分を本当に暖めてくれる存在を探すために誰かを探し、誰かを殺す。



―――いや、殺さずにはいられない。

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僕でも生きて居て良いって、言って下さい。 マーまーまき @marumasa0940

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