第39話 言い訳考え中
ギルドで冒険者の招集がかかったのはそれから二日後のことだった。
すでにネフィラは冒険者登録をして、数日で成果を上げてダンジョンに潜れるようになっていたし、レイたちも仮面の英雄としてではあるが活躍を繰り返していた。
まあ、レイ本人は逃げ惑っていただけなのだけど。
その日、招集した冒険者たちの前でギルドマスターは言った。
「【月と太陽の塔】に【聖女】と聖騎士たちが向かったが帰ってこない。元々あのダンジョンは危険度が増していたが……おそらく何かあったんだろう」
それを聞いて冒険者たちはざわめいたが、レイは一人顔を青くしていた。
(え、【聖女】と聖騎士が来てたの? しかも帰ってこないの? ヤバいじゃん! 教会が来ちゃう! 調べられたら僕たちが魔族だってバレちゃうんじゃないの!?)
一瞬にして磔餓死が迫ったと感じてレイは頭を抱えた。ヤバいまずい。レイはそもそもこの招集に参加するつもりなどなかった。ただ、何か危険が迫ってそうだな、情報くらい聞きに行くか、くらいの気持ちでこの場に参加していた。なのにこれだ。
(教会がきて僕が領主の家系だって気づいたら、「なんで対処しなかったんだ」って騒がれる。と言うか真っ先に僕が魔族だって疑われる。絶対そうだ。きっと「魔族だから部下を集めて、ダンジョンになにかよからぬ罠を仕掛け、【聖女】たちをおびき寄せた」とか言われるんだ! 僕なにもしてないのに!!)
相変わらずの論理の飛躍でそんなことを思ったレイだったが、この時点で実際に『零落』はダンジョンでフルールたちをとらえているので、その考えはあながち間違っていない。レイ自身が疑われるという部分を除けば。
そんなふうに、レイは話を聞いていなかったが、ギルドマスターは続けて、
「おそらく危険な状況にあるだろう。聖騎士たちは……まあ……そこそこの手練れだったのだろうが、四人だったし、それに【聖女】を連れていたからな。これだけ冒険者がいれば問題ないだろうが、くれぐれも注意するように。最悪の場合、モンスタースタンピートまで考えて行動しろ」
ギルドマスターがそう言ったのには訳があった。【月と太陽の塔】はダンジョンにしては珍しくその名の通り塔で、雲を突き抜けて十五階層まで登る建築物である。その周辺でなぜかモンスターの脅威度が増していて、レイたちがオークやら蛇のモンスターやらを討伐したのもこの辺だった。
「詳しく調べてみると、【月と太陽の塔】の周りに大量のモンスターの死体が散乱していた。おそらく上階から落ちてきたのだろう。それを食った周辺のモンスターが巨大化して、ダンジョン周囲の脅威度が増していたらしい」
塔の上階から落ちてくる。それだけ聞けば、そこまでたどりついた冒険者が暴れ回ってモンスターを塔から突き落とした、というのも考えられるが、それにしては数が多すぎた。
「考えられる可能性は二つだ。一つ、モンスターが上階で溢れている。二つ、凶暴化したモンスターが、暴れている。どちらにせよ、危険度は高い」
実際に上階にいるのはもっとヤバい奴だけれど、ギルドマスターや一介の冒険者、さらに言えば、レイたちですらそんなことなど知るよしもない。
と言うか、レイに関しては相変わらずの被害妄想爆発中なので、
(そうだ! 僕はちゃんと参加して隅の方にいよう! そうすればアリバイ工作みたいな感じで、「僕は領主の家系だけどちゃんと参加してました。だから魔族じゃありません! 関係ありません!」って言い訳ができる! これで疑われずに済むぞ!)
とか考えていた。
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