第36話 これはなんというか、そう、儀式だ。
「なにしてるのかしら?」
ノヴァはドアに耳を当てながらヨルに尋ねた。子供扱いされた上に仲間はずれにされたと思っているノヴァは、口では「わかった」と言ったものの全然納得できていなかった。
(どうしてあたしだけ仲間はずれにされなきゃいけないの?)
と言うことで、食事もそこそこにすぐにレイたちの居場所を突き止めてここにやってきたのだけど、なぜかヨルもいっしょについてきた。
「あーこれは……」
「なによ」
ヨルは腕を組んで考え込む。彼女もまさかレイとネフィラがこんな関係にあるとは思ってもみなかった。とは言え、漏れ聞こえてくる声から推察するだけである、ヨルもレイがまさかネフィラを虐めているなどとは知るよしもない。
「邪魔をしない方がいいかもしれないぜ」
「なんかネフィラが苦しそうな声をしてるわ。助けた方がいいんじゃない?」
「うーん。……ウチには荷が重い状況だぜ(十二歳に性教育をするのは)」
「え、この中ってそんなに大変なことになってるの? レイヴンがネフィラにそんなに酷いことしてるの?」
「…………ある意味では」
「止めないと!」
「いや、やめといた方がいい。これはなんというか、そう、儀式だ。邪魔しちゃまずい」
「儀式!? ……何かを召喚する、とか?」
「…………ある意味では(子供ができるし)」
「ねえさっきからそれ何よ。もっとはっきり言って」
「いや……くっ……ううむ……」
「何で苦しんでるのよ。……まさか、これについて話すのは、その、禁じられてるの? 呪いみたいに」
「
「もしかしてその儀式って血とか出るような……」
「…………ある意味では」
ノヴァは怯えたような顔をした。
「さ……さすがヴィラン家ね。そんな恐ろしいこと平気でやっちゃうなんて」
「……家は関係ないと思うけどな」
「え? なに?」
「いや、なんでもない。とにかく邪魔しちゃまずいぜ、ノヴァリエ様」
「ええ、そうね。仲間はずれにされたんだと思ったけど、違ったわ。こんな怖いことしてるなんて思わなかった。きっとあたしも知らないような恐ろしい呪具とか使うんでしょ?」
「…………道具を使う場合もある。恐ろしい形は……してるな」
「い、行きましょ。ここにいるのも怖いわ。ネフィラ頑張ってね」
「楽しんでると思うけどな」
「は?」
「なんでもない」
ノヴァは震えながらヨルと共にその場を立ち去った。レイたちが秘密の(すでに秘密ではない)逢瀬をしている部屋からかなり離れた場所でようやくヨルは口を開く。
「ときに、ノヴァリエ様はレイのことをどう思ってるんだ?」
「どうって……やるときしかやらない男?」
「いや、そういうことじゃなくてな。もしもレイヴン様がネフィラ様と……その……くっついたらどう思う?」
「くっつくって? ……好き合うってこと?」
「まあ……うん……そう、だな」
「…………気まずいわね」
「それは……どういう意味で?」
「だってそうでしょ? あたしはレイヴンが人間界に来るっていうから、観光みたいな感じでついてきてるのに、本当はネフィラとデートとかしたいってなったら気まずいじゃない。あたし邪魔者――そういうこと!?」
「あ、まずい。気づいた」
「ダンジョンデートするためにあの部屋で訓練してるのね!?」
「あ、気づいてなかった」
「え?」
「いや、なんでもない。ノヴァリエ様がその認識ならいいんだ。うん。安心したぜ。危うく修羅場になるところだったぜ」
「修羅場って間男とか出てくるやつ?」
「何でそっちは知ってんだよ!」
◇◇◇
「ネフィラ、昨日は大変だったみたいね。すんごい苦しそうな声が廊下に響いてたわ」
翌日の朝食の席でノヴァが言うとレイとネフィラは顔を真っ赤にした。ネフィラはフォークを落として、レイは口をパクパクさせている。
「え! え! 防音の魔道具つけてたのに!?」
「普通に聞こえてたわよ。壊れたんじゃないかしら」
ヨルはニヤニヤしている。対してノヴァはなんてことないように朝食を口に運びながら、
「ネフィラが苦しむなんて、相当激しい運動よね。レイヴンもほどほどにした方がいいわ……なによ?」
「いや、あの、ごめんなさい。誰にも言わないでください」
レイは両手で顔を覆ってうなだれながら言った。
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