第30話 傷一つつかないけど、攻撃したいなら攻撃すれば?
ノヴァは腕を組んで仁王立ちするとレイを見下ろして言った。
「いつまで薬草探してるのよ!」
「薬草探しに来たんだよ!?」
レイはしゃがみ込んで草むしりをしていたけれど、ノヴァは全く動こうともしない。
「あたしはモンスターを倒しに来たの! そうしないとランクが上がらないでしょ!? ダンジョンが遠のくわ」
「依頼失敗した方がランク遠のくと思うけど」
「薬草なんてそこら辺で買えばいいのよ」
「僕たち冒険者なのに!?」
どうもノヴァは冒険者という職業を旅行者か何かと勘違いしているみたいだった。対してレイはこの薬草でのお金稼ぎが今後の生計になるとマジで思っていたのでかなり本気で探している。
(追放されたあとも食べていかなきゃならないからね。薬草むしったり、作物育てたりしてすみっこぐらしをしなきゃいけないんだから。今度農業をしてる人たちにも話を聞こう)
コイツはコイツで冒険者らしくない。
そんな風に下を見ていたレイの襟首をノヴァが掴む。
「なに!?」
「ねえ、冒険者たちが森の中に入ってく! ついて行くわよ!」
「僕たちは僕たちでパーティメンバー見つけてからにしたら?」
「あなたがいれば危険じゃないでしょ!? ドラゴンぶっ飛ばしたくせに!」
「ぶっ飛ばしてない! あの話はしたくない!」
「なによ! ギルドでも皆に言ってやろうと思ったのに」
「やめて! やめてくださいお願いします!」
(あ! わかった! そういうことか! ノヴァはネフィラの代わりとか言ってるけど本当は賠償請求しようとしてるんだ! 罪を償わせようとしてるんだ! 僕がドラゴンのセットぶっ壊して迷惑かけたのを皆に言いふらすって脅してるんだ! ゴブリンの巣に入りたいとか嘘だったんだあ……)
全部お前の勘違いだわ。
それを知らないノヴァは腕を組んで。
「ふうん。謙虚なのね。ま、確かに、ドラゴンぶっ飛ばしたなんて言っても普通は信じてくれないわよね。あたしだって実際見なきゃ信じてないだろうし。どう話せば信じてもらえるかしら」
「本当にやめてください。すみませんでした。靴舐めるので勘弁してください」
「はあ? どんだけ目立ちたくないのよ。あ、もしかしてヴィラン家の家訓とか? そういえばそうよね。ヴィラン家って裏で活躍してるのに全然その詳細を聞かないものね。なるほどね」
(そんな家訓は知らない。……僕が落ちこぼれだから教えられてないだけかも)
レイがげんなりしていると、ノヴァはチラチラと森の方を見て、
「ほら、置いてかれちゃうわ! 行くわよ!」
「……はい」
(言いふらされるよりずっといい。冒険者について行くんだから戦うのは僕たちじゃないし。……というかノヴァはそんなにゴブリンの巣に入りたいのかな?)
そう思いつつ、レイはノヴァに着いていったが、
「ねえ、歩くの遅いわよ」
「言ったじゃん、僕、敏捷1だって。きっと誰よりもかけっこ遅いよ。スライムより遅いかも」
「誇るな、そんなこと! いいわよわかったわよ。あたしが背負ってあげるわ! 置いてかれたくないもの!」
言ったノヴァはレイを背負うとパタパタと駆け出した。
一国の姫に自分を背負わせるという不敬である。
一応ここは人間界だし、猫の王国は人間界の国なので、ノヴァを知っている人に見られればレイは本当にヤバいのだけれど、迷惑かけたことを言いふらされたくないのでノヴァの言うとおりにしている。
今日はマジでかっこ悪いレイだった。
なんなんだ、お前。
とは言え、実を言えばこの「背負う」という行為は二人にとって――特にノヴァにとって最適な選択だった。
ノヴァは異常値といえる防御力を誇る――裏を返せば彼女は探知や探索と言った「事前に身を守るための行動」に疎い。「攻撃されても、傷一つつかないけど、攻撃したいなら攻撃すれば?」と言うのがノヴァのスタンスである。
だから常に全方位がら空きで、もしも防御力を超える攻撃に晒されれば、ノヴァはひとたまりもない。
一方で、レイを背負ったこの状態であれば、たとえドラゴンの魔力砲相当の攻撃が背後から飛んできたとしても、レイのユニークスキルが二人を同時に守ってくれる――そういう意味で最適だった。
ある意味では走る要塞。
敵味方問わずぶっ飛ばすけど。
そんな、むき出しの刀身を振り回しながら走るような危険走行を続けていたノヴァだったが、ふと、何かに気づいて立ち止まった。
「あ! さっきの冒険者が襲われてるわ!」
レイが見ると確かに冒険者たちは襲われている。すでに一人は頭から血を流して倒れていて、残る三人が怯えた様子で武器を握る。ゴブリンの集団だけならまだ彼らだけで対処できただろうけれど、そこにはオーガが五体混じっていた。
筋骨隆々の巨大な身体で多分三メートルくらいあるんじゃないかとレイは思う。額には小さめの角が生えていて、口から鋭い牙が覗いている――鬼。その手に握られているのは生えている木をそのまま引き抜いた太い棍棒で、むき出しの根や枝はそのまま釘バットみたいに突き刺さりそうだった。
そんなマッチョヤンキーみたいな五体のオーガは冒険者たちを取り囲み咆吼を上げて威嚇している。
(絶対威嚇する必要なんてない。冒険者たち怯えきってるし。あんなの虐めじゃん。近づいて巻き添え食らうくらいだったら応援呼んだ方がいいよね。うんうん。怖いし)
それに対してノヴァは、
「助けてあげればランク上がるわよね?」
「……それしか考えてないね、ほんとに」
「あったり前でしょ! さあ行くわよ!」
「ちょっと待って!」
ノヴァはレイを無視して、彼を背負ったままかけ出し、オーガたちの後ろから声をかけた。
「あたしたちが相手になってあげるわ! さあかかってきなさい!」
オーガたちはゆっくりとこちらを見て、じろりと睨んでいたが、対して囲まれて怯えていた冒険者たちは、
「何やってんだ逃げろ!」
「被害が出る前に応援を呼べ!」
と叫んでいた。
オーガはフンと鼻を鳴らすとノヴァを完全に無視して冒険者たちの方へと視線を戻す。
「あ、あたしのこと無視したわね! あったまきた!」
ノヴァはレイをパッと離して地面に落とすと、そのまま駆け出して、オーガの尻に跳び蹴りを食らわせた。
レイは冒険者たちと一緒に悲鳴を上げた。
「「なにやってんだああああああ!」」
蹴られたオーガは怒ったのか完全にノヴァの方へ身体を向け、そして、その手に持った棍棒を振り上げた。
「逃げろおおおおおお!」
冒険者たちが叫ぶ。
(あ、僕もこのあと死ぬんだ)
とレイは思う。
ぐんと振られた質量のある棍棒はノヴァにぶつかり、
そして、真っ二つに折れた。
折れた棍棒の先が吹っ飛んでいく。オーガは何が起きたのか理解出来ていないようで短くなった棍棒をじっと見つめている。
殴られたノヴァは全くの無傷。
ケロリとした顔をして、
「なあんだ、そんなもの?」
そう言って笑った。
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