優等生は堕落する!!

茶散る

第1話

入学式、4月8日、その日は入学式だった。

体育館の窓の合間から見える桜をみて思う。

 出会いや別れと忙しい時期だからか、はたまたこのおおらかな陽気のせいなのか、素晴らしく機嫌が慢性的に良いこの季節

春、春はいい季節だと。

 ふと壇上にめをやるとそこでは、新入生代表の女生徒が挨拶をしていた。

佐原にはその春の陽気に照らされた姿なんだかとても美しく思えた、それは見目麗しい女性を美しいと思う感情ともルーブル美術館のサモトラケのニケを見て美しいと思う気持ちとも違うものだった。

思わず挨拶がおわるまで見入ってしまった。


 生徒会室には真っ白な制服を着た二人の男女が全く対照的な活動をしている。

片方はため息をつきながら部屋の奥でダラダと背もたれにもたれかかりながら海外コメディ映画を大きな音で流す自らの先輩に言った。

「会長、うるさいですよ、少しは人の事を考えられないんですか?」

彼の訴えをきいて、彼女は、

「人の事を考えるたって佐原、どうにも、ここには佐原と私しかいないじゃないか」

そう言うと会長はその健康的な小麦色にやけた顔をきょとんとさせている。

「わかりますか?会長。俺も人なんですよ?俺の事も考えて行動しろって言ってるんですよ?アンダスタンオーケー?」

「はは。いやいや佐原と私は一心同体だからね?常に佐原の事を考えて行動してるさ。」

会長は悪びれるそぶりもなくそう笑いながら言った

佐原は諦めたようにため息をつきそれまで行ってきた作業に戻った

文字通り、お手上げだ

「ああ一応言っておくと佐原、常に佐原の事を考えてるってのは恋愛的な意味じゃあないからね?でもまあ佐原がどうしてもって言うならデートぐらい行っていいよ」

会長は止まらず、佐原に話かけた

会長に話かけたのは間違いだったようだ

「すいません、俺、処女厨なんで」

「おいおい佐原、私は処女だぞ?これだから童貞は見る目がなくてこまるね。」

会長は鼻で笑ってこたえた。

それに対し佐原はまたしてもためいきをついて言った

「会長、あなたも仕事しましょうよ。」

佐原のその一言を聞いた会長は目の色を変えて

「ああそういえば、陸上部のミーティングがあったんだった。佐原、あとは頼んだよ!」

そう言うと会長は足早に生徒会室を後にした。

佐原は「おいおいどんだけ仕事するのがいやなんだよ」と誰にも届かぬ一人事をこぼすはめになったのである

もういいやさっさとやることを終わらして帰ってしまおう。

その姿はまるでリストラを受けて公園に出勤する一家の大黒柱のような哀愁をただよわせていた。

 佐原十三、彼は自他ともに認めるつまらない男だ。

佐原という人間は、他の人間より多少打算的なところがあるだけで大した取柄もなければ欠点もない普通の人間であると自負している。部活に所属してはおらずこれまでの16年11か月の人生のなかで一度も恋人というものができたことがない。

それに学力はそれなりで、府立春日高校の二年生だ。

 しかし佐原には人に対する情というものがない。人への情がないということは人に合わせる気がない、

故に佐原はつまらない男だといわれるのである。

佐原は府立春日高校で生徒会副会長をやっている。

 別段、この春日高校という学校は府内で有名な進学校という訳でもなければ何か特別な学科を持っている訳でもない、

ごくごく普通のありふれた普通科高校だ。

 しかしこの学校には厄介な歴史がある、それはかつて生徒会が大いに権力を握っていた歴史だ。

そのころの名残のせいで生徒会役員は一般生徒とは違う、真っ白な制服を着る羽目になっている。

 その目立つ制服のせいなのかはたまた、ただただ生徒会に興味がないだけなのか、今や生徒会役員は佐原と会長との二人になってしまった。

 すでにかつての栄誉は忘れ去られ、後に残ったのは厄介な名残と無いに等しい優遇のみである。

 その一つが生徒会室、普通の高校では、生徒会室は存在せず、職員室を間借りするなり会議室を占領するなりして活動しているものだが幸か不幸か我が春日高校では、ちゃんとした生徒会室が存在する、しかもありがたいことに生徒会の栄誉を知らしめるかのごとく、屋上にポツリと配置されているのだ。これではまるでこっちが見下ろしているのか、晒されているのか、分かったものではない。

そうして佐原が物思いにふけっているのもつかの間、いきなりバンと音を立ててドアが開き、そこにはいかにも賢そうな女生徒が立っていた、かくして佐原の仕事はまたしても途切れてしまったのである。

「失礼します!1年のアキナシです!」

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優等生は堕落する!! 茶散る @tyatiru123

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