第9話 きっと、ただの強がり ※ランドリック視点

 婚約相手だった彼女が去っていく。去り際に圧倒されて、気付いたら俺は床に座り込んでいた。横で同じように、レイティアがへたり込んでいる。


 ダメだ。急いで立ち上がらないと。周りに見られている。こんなところで、みっともない姿は見せられない。俺は急いで立ち上がり、彼女に手を伸ばした。


「大丈夫か?」


 彼女は俺の手を掴み、取り立ち上がる。そして、俺を見つめて微笑んだ。


「え、えぇ。ありがとうございます」


 その声は、少し震えているような気がした。あの女のせいだな。あんな馬鹿みたいな契約をさせやがって。余裕な態度で去っていった。本当なら、俺たちがそうするはずだったのに。


「大丈夫です。あの余裕な態度と言葉はきっと、最後の悪あがきでしょうね。ランドリック様との婚約を破棄されて、困るのは向こうです」

「そうだろうか?」

「そうですよ! だから私たちは予定通り婚約して、そのまま結婚すればいいんです!」

「そうだな……」


 落ち着いて、余裕な態度になったレイティアは頼もしいな。


「それに、あの契約は彼女にも大きなデメリットがありました」

「デメリット?」

「貴族の身分を捨てて、平民になるなんて愚かですよ。理解できません」

「それは、確かに」


 バロウクリフ家から除籍。貴族の身分を放棄して、一般庶民になる。どうして、そんな内容を契約に含めたのか。レイティアの言う通り、意味が理解できない。


「アンリエッタのことだからきっと、それで哀れに思われようと、同情を集めようとしたんでしょう」

「なるほど」

「でも、無駄でした。ランドリック様が、すぐ契約書にサインしてしまった。予想外だったのでしょう。だから、あんなに契約する前に内容を確認しなかったことを責めてきて。彼女も後に引けなくなった。それが真相でしょうね」


 アンリエッタと友人で、長年の付き合いがあるレイティアだからこそ気付けることがあるんだろう。彼女の言っていることが、その通りだと思えた。


「だからこそ、さっき言ったように私たちは予定通り結婚して、幸せになってやればいいんですよ!」

「そういうことだな」


 レイティアの前向きな意見を聞いて救われる。やっぱり、この子が好きだ。アンリエッタではなく、レイティアを婚約相手に選んでよかった。


「これから先、どんな困難があっても二人で乗り越えていきましょうね」

「もちろんだ」


 俺には、レイティアという素敵な女性が一緒にいてくれる。だから何も怖くない。彼女の手を取り、強く握りしめた。


 あの女に言われた通り、俺はレイティアと2人で一緒に幸せになってやろう。

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