追放された神見習いは人間を知りたい
癸卯紡
第1話 神見習い108番
「・・・・108番! おい起きろ、108番!!」
「んん? あぁ、何だよ? もう朝か?」
「何言ってんだ108番。朝どころか今はもう昼過ぎだ」
「そうか、んじゃ日が沈んだら起こしてくれ」
「おい寝るな! 上級神様がお前をお呼びだ」
「上級神の爺さんが俺を?」
「あぁそうだ。だから急いで天界の門へと向かってくれ」
俺は地球という惑星にある日本という国の管理を任された神、、、、の下で見習いをやっている神見習いだ。まぁ、管理といっても俺たち神族は世界が崩壊するレベルの事件でもない限り動くことはない。
俺たちには管理する国や惑星が滅びると称号を剥奪されるというペナルティもあるのだ。神や神見習いという称号を剥奪された者は人間としてどこかの惑星に転生(島流し)させられるか、生前罪を犯した者が落とされる地獄で牢番をやらされるたりするらしい。
そんなペナルティもあり、昔、俺の上司は自分が管理する日本が他国に攻められ危機に瀕した際、下界に暴風雨をおこし攻めて来た他国の船を何隻も沈め日本を守った事もあったくらいだ。
では普段、下界に何もない時は何をしてるのかだって?
そんなもの決まってるだろ、毎日ただただ下界を見ているだけだ。そんな俺たちの存在を知ってか知らずか、人間たちの間でも「神様はいつも私たちを見守っていてくださる」なんてことを言って俺たちを崇拝し金や供物などを捧げる者もいるのだから楽な商売だ。
また、俺の直属の上司である日本担当の神アマテラスが管理する日本という国は、最近では大きな戦争などもなく百年近く平和を保っている。そのため、ただでさえやることがない神の仕事はさらに減り、他の惑星を管理している神見習いたちからは羨ましがられていた。
そんなある日の事だった。管理している日本の平和に胡坐をかき昼過ぎまで寝ていた俺の所に、この天界を治めている上級神の使いがやって来て「今すぐに天界と下界を隔てている天界の門へ来るように」との上級神の命を伝えに来たのだ。
俺は眠い目を擦りながら神服に着替え寝グセも直さず向かうと、そこにはハゲた頭と見るからにエラソーなモジャモジャの髭を生やし、頭には天使の輪を乗せた上級神のジイさんがいた。────上級神のジイさんは腕を組み何やらご立腹のようだ。
「あの・・・・なんか呼ばれたみたいなんですけど?」
俺は恐る恐る口を開き用件を尋ねる。
「其方、神の仕事とは何かわかるか?」
「はぁ、、、、 毎日毎日下界を覗くことです」
「それから?」
「それから、、、、えっと、ヤバくなったら生きとし生ける者たちに手を貸すこと・・・・です」
「まぁええじゃろう。それで? 今地球では世界中で多くの死傷者を出している流行り病が蔓延しているが、其方はなぜ何もしないのだ? 其方の国も例外ではないであろう?」
────流行り病?
そういえば、そんなことをアマテラスが言っていたのを思い出した。だが、そんなものでゴキブリよりしぶとい人間の国が亡びるわけがないじゃないか。上級神のジイさんも心配しすぎだ。
そう思い、俺はおどけた態度で上級神に言う。
「流行り病・・・・? あぁ、アレですか。あのですね、他の国はどうかわかりませんが私の管理している日本はあれくらいでは滅びませんよ。滅びないから助けない、ただそれだけのことです。それにアレくらい人間たちだけで乗り越えてもらわないと、何でもかんでも神が助けていては神に頼ってばかりの脆弱な人間になってしまいますから」
俺の言葉を聞いた上級神の顔は、顎の先から頭の先まで一瞬で真っ赤になり両手を握りしめプルプルと震わせていた。
「 大莫迦者!!!!!!! 」
「!?」
「貴様、神見習いを何年やっておるのだ!? 国が滅びないから助けない!? 神に頼ってばかりだと脆弱になる!?!? ふざけたことを申すでない!!! 神は人を理解し、人を愛してこそ神となりえるのだ!!!」
「え?え?? あの・・・・」
ただ毎日下界を覗くだけの仕事がそんなに大切だとでもいうのだろうか? ハッキリ言って俺は下界の人間たちを見守る仕事など我々神族の暇つぶしくらいにしか思っていなかったのだ。────そもそも俺、人間という種族が嫌いだしな。
自分勝手で傲慢で、普段神など信じてもいないくせに何か辛いことがあればすぐ神頼みをする。それでいて自分に不幸がふりかかれば「この世には神も仏もない」などと勝手な事を言うアイツらをどうやって愛せというんだ。
「よくわかった。其方には人間を知るため下界へと赴いてもらうこととする」
「じょ、冗談ですよね?」
「冗談なものか! 其方には下界で人間を理解し愛せるようになるまで人間と共に暮らしてもらう事とする!!」
「転生(島流し)なんて冗談じゃないですよ。俺が管理する国は滅んですらいないのに転生なんてルール違反だ!!!」
俺の抗議が効いたのか、上級神は腕を組み数秒考え込んだがすぐに何やら閃いたようでニヤリと笑うと顔を上げた。
「転生ではない。これは神見習いとしての研修である!!」
「言い方を変えただけではないですか!!」
「違う!! そもそも其方が人間を愛し理解できたのならすぐにでも天界へと戻れるのだ。立派な研修ではないか!!」
「冗談じゃない!!」
俺はその場から逃げようと転移の魔法を使うが、魔法は発動しなかった。
「え? なんで・・・・?」
「バカめ! 上級神からは逃れられぬのだ!!」
上級神は俺に向かって手を広げる。すると俺が身に纏っていた神服と呼ばれる白いローブのような服から下界にいる人間たちが着ているような服へと変わった。そして俺の腕には、いつの間にかいくらでも物を入れられるリュックがかけられていた。
ぎゅるるるるるるぅぅぅ・・・・・
俺の腹が鳴った。
「・・・・なんだこれ?」
「ふむ、無事人間になれたようじゃな。今其方の腹が鳴ったのは空腹を知らせる腹の虫だ。人間は食べねば生きられないのは知っておるだろう?」
「ふっっっざけんな、クソジジイ!!」
「うむ、腹だけではなく性格も人間らしくなってきたではないか。結構結構!!」
「────」
俺はもうこのジジイには何を言ってもダメだと諦めた。
「だがワシも悪魔ではない。其方の体でも魔法は使えるようにしておいてやろう」
「本当か!?」
「あぁ、ただし神体の時の力の百分の一に抑えさせてもらうがな」
「ひゃくぶんの・・・・いち?」
俺はあまりの事に言葉が出てこず愕然としている。
「では108番よ、本日をもって其方を天界から下界への追ほ・・・・もとい、研修を命ずる!!」
上級神は転移の魔法を使い俺を人間たちが住んでいる下界へと落とした。下界には今、大雨が降っており、どことも知らない道端に落とされ仰向けで倒れている俺に容赦なく冷たい雨粒を吹きつけてきた。
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