スターチルドレン
夢七夜 孤島(ムナヤ コトウ)
第1話 ムーンショット
もう当たり前となったムーンショット。
3年前には目標と称されていたものが、2年前には計画へと変更され、
そして去年は国会で可決され、それは実行された。
これは人が自由に精神の世界を行き来できると言うとんでもない技術だった。
簡単に言えば、契約が個々間で成立すれば、人格の入れ替えが可能となるのだ。
もちろん制約はある。
この契約はビジネス間のみ許されるというものだ。
またプライバシーを尊重するために、個々間でしかその契約が交わされた事は分からない。
つまり、人格を交換する者同士しか、この入れ替わりは知らされないものとするのだが、一方で個々と言っても、トラブルを避けるため、互いが使用されるのは一時的なID、つまり偽名でやり取りされるため、一体相手が誰なのかは分からないようになっている。
このムーンショットは私達の知らない間に密かに準備されていた。
3年前にはある注射がワクチンとして一斉に国民全員に行き渡るように打たれた。海外に居る者は大使館や外交官に召集され、打ち漏らしがないように打たれた。
そして2年前、突然ワクチンではなく最新の人口チップを打ち込んだ事を発表した。国民から一斉の反感を国は買ったが、安全性と利便性を説明され、国民は納得するほかなかった。
安全性にはワクチンの効果もあること、利便性はWi-Fiの電波を持たなくとも、脳波でスマホを持っていればインターネット情報にアクセスすることが可能となった。そして便利な機能はその都度ネットを介しアップデートされることだった。
そして去年最新のアップデートでムーンショットは施行され、個々間のビジネス契約が出来るようになった。国境を超えたまでとはいかないが、ビジネスの分野に於いては境界線がなくなったのだ。
苦手とする分野があれば、得意分野の人間とその期間精神をネットを通じて交換すればいい。不便なところと言えば、互いが互いにそれぞれの苦手分野を求め、そしてそれをお互い同時期に補え和える時のみしか使用できない。
つまりは複数人では交換が出来無い為、利害が一致した人間同士でのみこの方法が利用できる。
私はちょうど仕事の案件で、新しいアイディアそのものは浮かんだのだが、それを立証するためのデモを作成するプログラム技術が無かったので、それを出来る対象者を探していた。
そして運よく相手が見つかった。
一方彼は海外へ通訳の手伝いが必要なのだが、通訳できるほど流暢ではなかったため、私の語学技術との交換が成立した。
このムーンショットのお陰で、互いが互いの仕事を成し遂げる事ができ、またそのお陰で私は今年昇進することが出来た。その事には感謝でしかない。
だが、一つだけ問題が生じた。
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