お父さん、お腹が空いた

夢七夜 孤島(ムナヤ コトウ)

お父さん、お腹が空いた

「お父さんお腹が空いた」


「はぁ? お前さっき食ったばっかだろ」


 この頃息子の様子がおかしい……。


「お腹空いたもん」


「全くしょうがないな、コレでも食え」


 俺はさっきコンビニで買って来た、ポテトチップスを渡した。

 本当は仕事帰りに俺が食べるつもりのものだったが仕方が無い。


「お父さん」


「なんだ?」


(まだ、お腹空いたって言うわけじゃねーーよな?)


「今日も夜勤?」


「ああ、そうだな」


「そう……」


「そんな顔をするな。お前を食わせるためには働かなくちゃならないんだ」


「うん。……でも」


「なんだ?」


「ママは、ママはどうして突然いなくなっちゃったの」


「……」


 突然だった。

 俺が夜勤から帰ると、家に居る筈の妻が姿を消した。


 ……失踪。


 多分、甲斐性なしの俺に呆れて出て行ったのだろう。

 普通なら母親は息子も連れて実家に帰ると思うだろう。


 でも、俺の妻は違っていた。


 だって、彼女はそれほど息子の事を愛してはいなかった。

 息子がどれだけお前のことを愛していたのかも理解せずに……。


 だから、簡単に俺達を捨てる決意が出来たのだろう。


 あれはなんだったんだ、あの時……旅行先で見せた息子を見るお前の目は見間違いだったのだろうか?


 間違いなく、あの時のお前は自分の子を愛する母親の目をしていた。

 それに、こうも言っていたじゃないか。


「修君、私決めたわ。ちゃんとした母親になる」


 あれは思いつきで言っただけなのか!?


 あの旅行の後、俺以外がおかしくなったのかもしれない。


 妻は失踪し、息子はやたらと肉を欲する様になった。

 特に豚肉を好んで食べる。魚は刺身を好むようになった。


 あんな海外のむし料理を食ったから行けないんだ。

 幾ら沸騰した水で火を通したたとしても、安全なわけがない。


「お父さん」


「なんだ?」


「まだお仕事の時間じゃないでしょ?」


「ああ、そうだが」


「じゃあ、遊ぼうよ」


「いや、今日は夜勤だから寝かせてくれ……」


「うん、分かった。じゃあ一人で遊ぶ」


「ああ、そうしてくれ」


「お父さん」


「なんだ?」


「お腹空いたら勝手に食べてもいい?」


「ああ、好きにしなさい。その辺にあるだろう」


「分かった。お腹空いたら食べるね」


 ◇


「ねえ、聞きました」


「聞いた聞いたお隣の田村さんのところでしょ?」


「そうそう、なんか息子を残して二人とも失踪したらしいわよ」


「酷い話よね~~まだ小学二年生でしょ?」


「そうなのよ~~これから育ち盛りって時に、ほんっと酷い話よね」



 ギギギィ



「どうしたのケンタくん?」


「……お腹空いた。お肉食べたい」


「ごめんね~~おばちゃんたちお菓子しかないのよ、これで良かったら」


「ありがとう」


「あらやだケンタくん、それ私の指、ふふふ擽ったい。舐めちゃダ~~め」


 ━━完━━


※最後までお読みいただきありがとうございます。

※次回は解説をお届けします。

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